【内田雅也の追球】流れを手放した盗塁死――阪神4点先取後の落とし穴

[ 2019年8月10日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5―11広島 ( 2019年8月9日    京セラD )

2回2死一、三塁、糸井は二盗に失敗し、負傷交代(撮影・北條 貴史)
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 たとえば、2死二、三塁から2点打を放った打者が一塁に残る。押せ押せムードだ。盗塁させてみてはどうか。

 例題を示したうえ<こういうときはあえて走らせないこともある>と、日本ハム監督・栗山英樹は自ら答えている。2015年11月に出した著書『未徹在(みてつざい)』(KKベストセラーズ)にある。

 <走塁ミスは試合の流れを変える危険性があるからだ。せっかく2点取ったのに勢いでいかせてアウトになったら、こちらに傾いていた流れを自ら手放してしまうことになりかねない>。

 論理や統計ではない。監督を経験して得た勝負勘である。

 この例題とそっくりな場面が阪神2回裏の攻撃にあった。2死満塁から糸井嘉男が右前2点打を放った。この回3、4点目で押せ押せだった。

 なお2死一、三塁。ここで糸井が二盗を試みた。スタートした瞬間、嫌な予感がした。先の例題が頭によみがえったのだ。

 二盗は失敗に終わった。一度はセーフと判定されたが、広島からのリクエストでリプレー検証の末、アウトに覆った。しかも糸井は負傷し、そのまま退場となった。

 流れを失うものとして栗山は走塁ミスに加え併殺をあげていた。その併殺も3回裏1死一塁、大山悠輔三ゴロで喫した。

 案じた通り、阪神は流れを失った。4回表、高橋遥人が3ランを含む5安打を浴び、5失点と逆転を許した。

 単に打たれただけではない。大山が三ゴロを弾いて併殺を取り損なった。一、三塁での重盗も許した。記録に表れないミスが絡んでいた。

 1点差で進んだ終盤。8回表は先頭打者への四球にサイン違いの捕逸から失点。9回表は投ゴロ併殺で無失点のはずが悪送球から5失点。最後はミスが相次いでの惨敗となった。

 クライマックスシリーズ(CS)進出へ、当面の目標となる広島との3連戦初戦を落とした。痛恨の極みで、3位まで6・5ゲーム差と希望は薄らいでいく。

 大量4点を先取し、高橋遥も快調に立ちあがった。絶好の流れを手放したのはやはり、あの盗塁死だったのだろうか。

 あの場面。恐らくはノーサイン。グリーンライト(青信号)がついていたはずだ。普通の、または当然の姿勢とみえる。だが、こんなところに、まさかの落とし穴が潜んでいるのである。

 ならば、憤死で流れを手放す危険から「走るな」と赤信号をともす手があったかもしれない。

 走塁は難しい。積極ばかりでなく、時には自重が勝るのである。

 目に見えない流れについて、栗山は<野球の本質が見え隠れしている>としていた。この本質に迫れれば、勝利に近づけるのだろう。=敬称略= (編集委員)

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