ジョージ・ハリスン 輝きが増した「オール・シングス・マスト・パス」

[ 2021年8月10日 09:41 ]

ジョージ・ハリスンのアルバム「オール・シングス・マスト・パス」50周年記念エディションのジャケット
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 【牧 元一の孤人焦点】ジョージ・ハリスンは26歳の誕生日に1人でデモ・レコーディングを行った。ザ・ビートルズのメンバーだった頃の1969年2月25日のこと。場所はロンドンのEMIスタジオだ。

 録音したのは「オール・シングス・マスト・パス」「オールド・ブラウン・シュー」「サムシング」の3曲。のちに「オールド・ブラウン・シュー」はビートルズのシングル「ジョンとヨーコのバラード」(69年5月発売)のB面曲となり、「サムシング」はアルバム「アビイ・ロード」(69年9月発売)に収録された上、同10月にシングル(「カム・トゥゲザー」との両A面)として発売された。

 ジョージは、ビートルズが69年1月に行った「ゲット・バック・セッション」の際に「オール・シングス・マスト・パス」をアルバムに収録するように推していた。ところが、この曲が正式にレコーディングされることのないまま、70年4月、ポール・マッカートニーが自身のソロアルバム発売に併せてバンドからの脱退を宣言し、事実上の解散となてしまった。今から50年以上も前の話だ。

 今月8日に発売されたアルバム「オール・シングス・マスト・パス」50周年記念エディション。初のマルチ・フォーマットで、未発表のデモ、セッション・アウトテイク、スタジオ・ジャム音源なども収録されている。

 70年11月に発売されたこのアルバムは英米で1位を獲得。ジョージはかつて「作り始める前から、良いアルバムができることは分かっていた。手持ちの曲が本当にたくさんあったし、エネルギーも本当にたくさんあったからね。あれやこれやの後で自分のアルバムをついに作るのは、楽しかった。夢の中でも、飛びきりの夢だった」と語っていた。

 収録されているのは英米で1位を獲得した「マイ・スウィート・ロード」、米で10位の「美しき人生」、そして、ビートルズで日の目を見なかった「オール・シングス・マスト・パス」など。ジョージの長男でミュージシャンのダーニ・ハリスンは「父はずっと、このレコードのサウンドをよりクリアなものにしたいと願っていた。父が2001年に亡くなる直前まで、私たちは一緒にその作業に取り組んでいた。それから20年たった今、新たなテクノロジーとポール・ヒックスの力を借りて、私たちはその願いをかなえることができた」と話す。

 CD1の1曲目「アイド・ハヴ・ユー・エニイタイム」は大人びた雰囲気で、夕暮れ時に合いそう。2曲目「マイ・スウィート・ロード」は70年代初めに繰り返し聴いていたから、懐かしさがこみ上げて来る。5曲目「美しき人生」はまっすぐな愛の歌で、ポップで、心が弾む。

 CD2の5曲目が「オール・シングス・マスト・パス」。ジョージの声が温かく、「でもずっとここまで灰色なわけじゃない すべては流れ去る すべては流れ去るものなんだ」という歌詞が、コロナ禍の今、われわれへの励ましの言葉のように聞こえる。ビートルズのアルバム「アンソロジー3」でデモ・レコーディングの音源も聴くことができるが、やはり、この完成度は際立っている。音質も素晴らしい。曲作りから50年以上の時を経た今、輝きが増した感じだ。

 ジョージがビートルズのアルバムにこの曲を入れたいと願った気持ちも分かる気がした。もし、ジョージがもっと長生きしていれば、いつかどこかでポールらと一緒に演奏する機会があっただろうか…。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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2021年8月10日のニュース