記者を見舞った不運、番狂わせから4年…ラグビーW杯日本大会開幕 おもてなしの力見せる44日間が始まる

[ 2019年9月20日 10:50 ]

ラグビーW杯の開幕を前に、東京都新宿区のショップを訪れた外国人のファン=20日午前
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 15年9月18日。日本代表は翌日に控えていたW杯初戦の南アフリカ戦に向け、英南東部ブライトンのスタジアムで前日練習を行った。取材後、最寄りの駅から電車に飛び乗り、開幕のイングランド―フィジー戦が行われるトゥイッケナムへ。駅に到着し、住宅街を抜ける道を人混みにもまれながら進むと、巨大なラグビーの聖地が姿を現した。

 その後に起きたことの数々は、それ単独で振り返れば、今でも最悪だったと言える。膨大な数の取材申請が殺到したのだろう。W杯初陣の私にあてがわれた記者席には、デスクが付いていなかった。いわゆる、一般の観客席と同じ座席で、周りの人間もおいしそうにハイネケンを飲んでいる。嫌な予感は的中。ハーフタイム、背中側に置いていたパソコン入りのバックパックは、酔客がこぼしたビールで濡れていた。

 取材を終え、原稿を送信し、一路ブライトンへ。だが駅への道はフルタイムから1時間以上たっていたにも関わらずごった返しており、なかなか前進できない。ようやく駅に着いたものの、事故なのか混雑なのか、電車は動いていなかった。絶望感にさいなまれながらも、約1時間掛けて2駅分、ロンドン中心部方面の駅へと歩き、電車を待った。電車は動いていた。だが、ヘッドライトが見えたと思っても、次から次へと通過していく。どうやら各駅しか止まらない、小さな駅らしかった。30分ほど待って、ようやく停車した電車にくたくたになって乗り込んだ。

 車内は白のイングランドのファーストジャージーを着たファンで満員だった。すると立ったまま乗車している自分の後ろポケットに、何か棒のようなものが当たっている。振り返るとボックス席に座っているジャージーを着た40、50代とみられる酔った男性が、おもちゃのマジックハンドでいたずらしているではないか。明らかに差別的な行為と受け止めた。こちらが激しい口調で注意しても、笑いながら執ように繰り返してきたからだ。周りの乗客も、残念ながら見て見ぬふりだった。

 ようやく乗り換え駅のクラパムジャンクションに到着し、まだ動いていた最終電車で南下。ブライトンに到着したのは、19日午前3時ごろだったと記憶している。同じ電車には他社の記者の何人かも乗車しており、また明日と元気のない声であいさつを交わし、小さなB&Bの小さなベッドに着の身着のままへたり込んだ。もう英国になんて二度と来たくないと気持ちが沈んだまま。

 夜が明けた、あの日起きた「世紀の番狂わせ」がなかったら、私が抱いた負のイメージは一生消せないままだったと思う。結果的にその後2度渡英しているが、本当に2度と訪れることがなかったかも知れない。ある夜に、1人だけが見舞われた、不運の堆積。でも人間は、得てして一個人に起きた出来事が、最も強く印象に残ってしまうものだと思っている。

 9月20日に開幕するラグビーW杯日本大会。日本にとっては海外から観戦に訪れると推定される約40万人のファンに好印象を持ってもらうチャンスだ。大それたことをする必要はない。道を聞かれたら、教えてあげる。目が合ったら、ニコッとしてあげるだけでも十分だ。気持ちよく帰国してもらい、また日本を訪れたいと思わせたら勝ち。日本のおもてなしの力も見せる44日間が始まる。(阿部 令)

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