渡辺名人、執念の策!角換わり拒否し“雁木調”未知の世界へ 漂う用意周到さ

[ 2023年4月6日 04:55 ]

第1日を終え、駒を片付ける渡辺明名人(日本将棋連盟提供)
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 将棋の第81期名人戦7番勝負(毎日新聞社、朝日新聞社主催)第1局は5日、東京都文京区のホテル椿山荘東京で第1日を行い、午後6時30分に先手・渡辺明名人(38)が43手目を封じて指し掛けた。3連覇中の渡辺が防衛すると4連覇で永世名人資格(通算5期)獲得に王手となる一方、藤井聡太王将(20)=竜王、王位、叡王、棋王、棋聖含む6冠=奪取なら史上最年少7冠と同時に谷川浩司17世名人(61)の持つ史上最年少名人記録(21歳2カ月)を更新する。頂上決戦開幕局はきょう6日午前9時に再開。

 大事に温めていた策を披露するときがきた。振り駒で先手となった渡辺の視線が一瞬鋭さを増す。2、3月に開催され、藤井に1勝3敗で失冠した棋王戦5番勝負は全局が角換わりだったが、名人戦に舞台を移した今局は9手目で角道を止めて交換を拒否。「違う戦いにしましょう」という鮮明な意思表示だ。

 それだけではない。黙々と駒組みを進める中で「雁木(がんぎ)囲い」をぷんぷんにおわせながら、じらすように完成形まで持ち込まない。あえて表現するなら雁木調か。日本将棋連盟の公式棋譜が判定したのは「その他の戦型」。未知の世界へと藤井を誘導し、早い段階で力戦を強いたことになる。

 定跡の筋から離れた戦いは一手一手が重い。暗中模索の序盤戦は互いの知力体力を激しく消耗させるが、渡辺の指し回しからは用意周到さが色濃く漂う。藤井は28手目に98分の長考を敢行した一方、渡辺は25手目に46分を投入したのが最長だった。指し掛け時点での消費時間はほぼ同じ(渡辺4時間1分、藤井4時間6分)。想定外の局面で身をよじるほど悩むシーンは皆無に近かったはずだ。

 11連覇を期した棋王戦の敗退から中16日。名人戦も落とせば、20歳で竜王位を奪った2004年以来、維持し続けたタイトル保持期間が19年で途切れてしまう。「何らかのタイトルを持ち続ける」を棋士生活のプライオリティーとする渡辺にとってはまさに背水の陣。練りに練った第1日の駒さばきには、名人のただならぬ執念と気迫が混交していた。 (我満 晴朗)

 ≪記録係2人交代制≫今局の記録係は斎藤優希、田中大貴両三段の2人が交代で務めている。通常は1人だが、席を外しやすい対局者と違い、長時間座り続けなければならない記録係の負担を考慮して採用された。タイトル戦以外では対照的に2局を1人で担当するケースがある。ちなみに囲碁のタイトル戦は2人制だ。

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