【内田雅也の追球】箱庭で戒めた「大振り」 価値あるミエセスのボテボテの一打

[ 2023年5月17日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神9-4中日 ( 2023年5月16日    豊橋 )

6回、ミエセスの三ゴロの間に1点を追加(撮影・岸 良祐)
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 阪神監督・岡田彰布は自身初めてとなる豊橋市民球場での試合を前に記者団に「狭いん?」と尋ねた。両翼93メートル、中堅115メートルとバンテリンドームに比べれば、それぞれ7メートルも狭い。日本の球場が大リーガーから「箱庭」と呼ばれた昭和のころのサイズである。

 「そらミエちゃん(先発で)行かなアカンな。あっち向いてホイでも入るヤツ」。ヨハン・ミエセスの先発起用を明言し、当たり損ないでも柵越えする期待も示した。

 試合前の打撃練習。岡田は遊撃後方にいた。センターポールではためく球団旗を見上げ、ヘッドコーチ・平田勝男と何やら言葉を交わした。右打者に有利な左翼への強風が吹いていた。

 打撃練習を始めたミエセスは当初はボールの内側をたたくようにして反対方向(右翼)へ打っていた。途中から引っ張り始めたが、打球はライナー性で低い。1本は岡田に向けて飛び、あわててかわした。練習でのさく越えはファウルを除けば1本だけだった。

 狭い球場に追い風という一発の誘惑に乗らないよう、大振りを戒めているような練習だった。

 そんな姿勢が試合でも生きた。1回表2死満塁、ミエセスは一、二塁間をゴロで破る右前適時打を放った。「大振りにならないように、ランナーを還すことを考えた」とやはりコンパクトなスイングを心がけていた。

 さらに光るのは1点差に迫られた直後、6回表1死満塁での打撃である。フルカウントから食らいついての緩い三ゴロで1点をもぎ取ったのだ。相手に傾きかけた流れを取り戻す、価値あるボテボテの一打だった。

 何もミエセスばかりではない。いや、ミエセスが大振りをしないよう努めたということは、チーム全体で意思統一ができていたのだろう。

 計14安打を放ったが、本塁打はなく、長打は二塁打2本だけ。12本の単打が誘惑に勝ったことを示している。

 シェルドン・ノイジーの4安打はすべて単打。大山悠輔の2安打はともにゴロで三遊間を破った単打、2四球はともに1ボール2ストライクから誘い球を見極めたものだ。3、4番が自制心を保ち、つなぎ役となった。

 もちろん「自分が決める」という強い心も必要だが、次へ次へ――の意識は打線本来のあり方だろう。打線のつながりは心のつながりだったと書いておく。 =敬称略=
 (編集委員)

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