【内田雅也の追球】難敵攻略の綾と一穴…「走者一塁」につけ込んだ佐藤輝の一打だったかもしれない

[ 2022年6月12日 08:00 ]

交流戦   阪神3-2オリックス ( 2022年6月12日    京セラD )

<オ・神>8回 2死三塁 山本(右)の暴投で三走・佐藤輝が同点の生還 (撮影・成瀬 徹)
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 熊谷敬宥の足でもぎ取った阪神11回表の決勝点にはいくつかの綾があった。1死一塁で代走に出て二盗、捕手の送球がヘルメットに当たり中堅に転がり、三塁に向かった。中堅手が追いついた時、まだ三塁に達していなかったが三塁コーチ・藤本敦士は腕を回していた。ボールが見えなかった熊谷は、だから三塁を蹴る形の走塁ができた。

 さすがに俊足で、一塁スタートからスライディング、再スタートのわずかの戸惑いもあるなか、生還まで手もと計測で11秒22の速さだった。

 熊谷はその裏2死一、三塁でボテボテの嫌な当たりの三ゴロを好守でさばき、フィナーレを飾った。ヒーローである。

 熊谷二盗の時は走者一塁。長打警戒のため、相手外野陣が深く守っていたのも幸いした。

 この外野守備位置のあやがある。9回裏2死二塁で前進守備を敷いた中堅手・近本光司が安打性のライナー性飛球を難なく捕球できていた。

 山本由伸から同点に追いついた8回表も外野守備の問題があった。2死一塁から佐藤輝明が放った右前ライナーに、深く守っていた右翼手が突っ込んで後逸、三塁打にしたのだ。三塁まで進んだため、捕逸で同点に持ち込むことができた。

 山本はさすがに難敵だった。8回表もそうだったが、5回まで5安打1死球で出した走者はすべて2死からだった。

 山本は回の先頭打者や主軸打者、ピンチでは全力でくる。だが、その他の場面では、言葉は悪いがやや手を抜く。ギアチェンジができるのだ。

 西鉄(現西武)・稲尾和久について南海(現ソフトバンク)時代に対戦した大沢啓二が「チャンスで打席に立つと、稲尾のボールは光って見えた」と語っていた。「手抜き」と批判された江川卓(巨人)も同じだ。

 山本にも「2死」「走者一塁」というアリの一穴があった。今季の走者別被打率で得点圏では・143だが、走者一塁では・250と最も高かった=数字は10日現在=。佐藤輝の一打はそんな小さな穴につけ込んだものだったかもしれない。

 悪夢のような開幕9連敗から長い長い最下位生活を64試合目で抜け出した。価値ある1勝で今後に希望がわく。見上げれば3位まで3ゲーム。さあ、上を向いて歩いていこう。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年6月12日のニュース