【内田雅也の追球】「最適解」への試行錯誤――フルカウントでカーブを投げた阪神・藤浪

[ 2020年2月24日 08:00 ]

<広・神>5回、連続押し出しにぼう然の藤浪(撮影・北條 貴史)
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 野球アナリストのお股ニキ(本名、生年月日非公表)が阪神キャンプ地の沖縄・宜野座にやって来たのは3日前(20日)だった。藤浪晋太郎と話していた。

 「藤浪はもともと好きなんでがんばって復活してほしい」と語っていた。阪神担当・遠藤礼がインタビューし、昨年6月11日付スポニチ本紙(大阪本社発行版)に載っている。気になる投手なのだろう。

 さまざまなデータ分析と磨かれた感性からツイッターでコメントし、フォロワーは3万人を超える。ダルビッシュ有や千賀滉大らの支持を得る謎の素人、いや半ばプロの「プロウト」である。

 昨年出した初の著書『セイバーメトリクスの落とし穴』(光文社新書)はプロ野球選手、関係者にもよく読まれた。

 なかで「野球の再定義」が興味深い。『マネーボール』(ランダムハウス講談社)にある「三振を恐れるな。しかし三振はするな」を引用して本質を書いている。

 <野球というスポーツは相反する要素の両立が多くの場面で必要とされる。0か100かの二元論からなるべく脱却し、最適なバランスを探っていくことが求められるのだ>。

 全くだ。野球に、この世に絶対的な正解などない。同書では田中角栄の名言「この世に絶対的な価値などはない」を引く。「黒と白との間に灰色がある。どっちともいえない。真理は中間にある」

 投球も、ちょうどいい頃合いのフォーム、力加減、制球、配球……を自分なりに見つけていかねばならない。

 復活にかける藤浪はいま、その過程にいる。臨時投手コーチの山本昌から助言を受け、取り組んでいる。その山本昌も指導は「絶対ではない」と語っている。

 著書『ピッチングマニア』(学研プラス)にも「はじめに」で<ピッチャーはここに書いてあることすべてを取り入れる必要はありません>と前置きしている。<頭の片隅に「あんなことが書いてあったな」という認識だけ残しておいてください>と<引き出し>の一つだとしている。

 藤浪は23日の広島戦(コザしんきん)、乱調だった。2回を3安打、3四死球で3失点。ただ「正解」はないが「最適解」を探ろうと試行錯誤している様子は伝わってきた。

 5回裏、1死満塁。タイムで内野陣がマウンドに集まり、輪がとけて迎えた打者・上本崇司。フルカウントから選んだのはカーブだった。スライダーならともかく、藤浪がイン・ザ・ホールの状況でカーブを選んだことなどあっただろうか。高めに外れ、押しだし四球となったが、新たな自分を探ろうとする姿勢が見えていた。

 先に「復活」と書いたが、「新生」が正しいかもしれない。藤浪は新しく生まれ変わろうとしているのだ。

 絶対こうだという正解や答えなどない。バランスのいい、最適な頃合いは自分で探すしかない。=敬称略=(編集委員)

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