【内田雅也の追球】「一日一生」「一戦必勝」――鳥谷発言で考えた阪神の戦い方

[ 2019年8月28日 08:00 ]

雨天中止となった甲子園球場(撮影・坂田 高浩)
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 雨天中止が決まる前、甲子園球場一塁ベンチにいた阪神園芸甲子園施設部長、金沢健児に会った。「甲子園のご機嫌は?」と尋ねると「いいですよ」と笑っていた。

 阪神が長期ロードに出ている間に生気を取り戻したそうだ。今年は雨が少なく、甲子園の中止は5月28日巨人戦と7月19日ヤクルト戦の2試合だけだった。計20試合も流した昨年は異常だが、今年は日照りにやられていた。

散水はするが、自然の雨には及ばない。また試合日に雨の予報だと事前にシートをかぶせる。

「土は生きもの」と「甲子園の土守(つちもり)」と呼ばれた藤本治一郎は言っていた。<雨の降るときは雨に打たせた方がいい。シートでシャットアウトすると、土は拗(す)ねるのだ>と著書『甲子園球児一勝の“土”』(講談社)にある。金沢もその意味は十分承知している。

 だが雨に打たせられたのは「4月14日の後は8月15日までなかった」と、きちんと日付を覚えていた。阪神が他球場で試合をするロード中には降らず、相当乾いて――いや“渇いて”か――いたのだ。

 「今はもう大丈夫です」と23日の雨もあって上々の状態で、猛虎たちの帰りを待っていた。

 そんなチームでは鳥谷敬の発言が波紋を呼んでいた。25日ヤクルト戦の後、今季最後の神宮について問うと「自分もこれが最後になるかもしれないので」と答えたのだ。

 38歳。引退と背中合わせの状況で臆測が広がった。功労者としてみる球団も来季処遇について結論を出していない。近く討議する構えでいる。

 発言を伝え聞いて思ったのは天台宗の大阿闍梨(だいあじゃり)、酒井雄哉(ゆうさい)だった。「一日だって同じ日はない」と著書『一日一生』(朝日新書)にある。「だから“一日が一生”と考える。一日を中心にやっていくと、今日一日全力を尽くして明日を迎えようと思える」。鳥谷もそんな思いではないだろうか。

 野球も幾万試合やろうが、一つとして同じ試合はない。全力を尽くして次の試合を迎えたい。

 2006年、エレベーター事故で他界した都小山台高の球児、市川大輔(ひろすけ)のメールアドレスは<everyday my last>の言葉が織り込まれていた。毎日、最後のつもりで野球に向かっていたのだ。

 いまの阪神は逆転でのクライマックスシリーズ(CS)進出に一戦必勝の姿勢がいる。留守にしていた甲子園で展開されていた高校野球のように「負けたら終わり」の覚悟である。=敬称略=(編集委員)

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