【芸人イチオシ】柳亭小痴楽 追いかけ続ける“オヤジ”の背中「落語は学んでいないが、生き様は学んだ」

[ 2023年2月17日 08:00 ]

柳亭小痴楽
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 落語家の柳亭小痴楽(34)は、甘いマスクから飛び出る毒舌満載な滑稽話が大得意だ。寄席だけでなくテレビやラジオへの出演も多いが、「本来僕なんかがテレビに出ていいはずがないんですよ」と、ちまたで取り沙汰されていた日本テレビ「笑点」の“レギュラー候補説”も一蹴。「僕の高座を見ていたら、そんなこと思うわけないと思うんですがね」とチクリ。その語り口は、急逝した父・五代目柳亭痴楽さんの影響を多分に受けている。

 「オヤジからは落語は学んでいないが、生き様は学んでいます」と胸を張る。痴楽さんは、ゴルフや麻雀をたしなみ、家に1カ月帰ってこないこともざら。たまに家に帰ってきたと思ったら、すぐにいなくなるような仕事と遊びの境の無いような生活を送っていた。小痴楽にはその楽しそうな姿が強く印象に残っている。

 教育も独特だった。けんかをすると、それをしたこと自体ではなく「両者がどう矛を収めるのか、そこまで考えてけんかしたのか」としかられた。「とにかく筋を通すことを口酸っぱく言われた。頭ごなしにしかりつけられたことはありませんでしたね」と当時を回想。その教えは今でも自身の行動原理にもなっているという。

 もともと家庭内で落語と触れる機会はなかったが、15歳の時に偶然耳にした八代目春風亭柳枝の「花色木綿」を聞き、その語り口に一気に引き込まれた。父に入門しようとした矢先の2005年、痴楽さんが脳幹出血で倒れてしまった。その後09年に死去。結局、父からは落語についてほとんど学ぶことはなかった。

 気っ風の良い軽妙な語り口が人気の痴楽さんの落語。当然、音源などで聞くことはできるが「オヤジの落語は好きじゃない」と語る。「自分はその人の落語が好きなら、その人柄も好きになってしまう。でも唯一当てはまらないのが父」とニヤリと笑う。人を褒めすぎないのも小痴楽の芸風だ。

 そんな“小痴楽節”が申し分なく発揮されるのが古典落語の世界。中でも“18禁”な師匠ネタをマクラに、自由なアレンジを加えた「粗忽長屋」は一級品。「落語って1つの生き方だと思うんです。ダメな人間の中にも筋や人情が詰まっている」。それは道楽じみた生活の中にも一本筋がある父の生き様のよう。「ようするに、バカの与太郎を語りたいんです。しょせん落語家は底辺。でも話さえ面白ければ、それでいいんです」。

 本人は嫌がるかもしれないが、小気味の良い語り口から発されるドキりとする一言は、やはり痴楽さんを思わせる節がある。「(2歳の)息子が落語家になりたいなんて言い出したら許さない。“厳しいぞ、お前の父は”とね」。そう言いながらきっと、憧れの生き様は最愛の長男にも受け継がれていくのだろう。やはり小痴楽家の教育は父と同じく素直じゃなく、愛と皮肉がこもっている。

 ◇柳亭 小痴楽(りゅうてい・こちらく)1988年(昭63)12月13日生まれ、東京都出身の34歳。05年に初高座。09年に二ツ目昇進。15年にNHK新人落語大賞の決勝進出。19年に真打昇進。神田伯山、桂宮治らと若手落語・講談ユニット「成金」のメンバーとして活躍した。現在放送中のフジテレビ系連続ドラマ「三千円の使いかた」ではナレーションを担当。  

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