【内田雅也の追球】再び横浜を訪れるために まずは自分たちが喜べる、幸せになれるようにプレーしよう

[ 2022年9月11日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0―7DeNA ( 2022年9月10日    横浜 )

<D・神>厳しい表情で球場を後にする矢野監督
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 敗戦後、阪神の選手たちは左翼スタンド前まで歩んで整列し、ファンに頭を下げた。レギュラーシーズン最後の横浜だった。そして今季限りで退任する監督・矢野燿大には最後の横浜だった。

 矢野にとって横浜の思い出と言えば、就任初年度2019年のクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージではないだろうか。3位で進出。第1戦は6点差を大逆転。第2戦はサヨナラ負け。そして第3戦、土砂降りの雨の中、藤川球児が締めてファイナルステージ進出を決めた。

 あの夜、当欄で矢野の言う「誰かを喜ばせる」の意味を書いた。<あなたが幸せであることが誰かを幸せにしている>と喜多川泰『書斎の鍵』(現代書林)にある。プロ野球選手のあり方だ。雨の中、ぴょんぴょん跳びはねる藤川を見て、どれだけ多くの阪神ファンが幸せになったことか。

 だから阪神の選手たちはまず、自分たちで喜べる、幸せになるようにプレーしなくてはならない。なぜ義務のように書くかと言えば、その喜びや幸せが多くの誰かを喜ばせ、幸せにするからだ。それが使命なのだ。

 この日はどうだったか。何か苦しそうに野球をしていた。本来好きな野球である。その最高峰にいる彼らが仕事として勤務時間をこなすかのように試合が進んだ。目をこらしたが、喜びや幸せは見いだせなかった。

 結果は完敗である。19歳の新人・森木大智が3回裏、空いた一塁を埋める2四球(1つは申告敬遠)で2死満塁としたのは“1点もやれない”という貧打の重圧もあろう。2点二塁打で降板となった。直後、山本泰寛悪送球による2失点が痛い。0―3と0―5ではその後の展開も違う。

 打線は反発力もない。散発3安打。零敗は今季25度目で、1963(昭和38)年の24度を上回る球団ワーストとなった。

 その63年、阪神は大リーグ・タイガースと合同で初の海外キャンプをフロリダ州レークランドで張った。毎朝配布される練習スケジュールに「Hustle」と大書されていた。「張り切る」という意味の「ハッスル」は阪神が持ち帰った外来語だ。今がその時だ。

 帰りの新幹線。窓外で中秋の名月が泣いていた。もう一度、横浜に戻るには2位DeNA、阪神3位でのCS進出しかない。その先には日本一もある。=敬称略=(編集委員)

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2022年9月11日のニュース