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【コラム】戸塚啓

日本人のコーチが必要 ジーコとザックにいなくて、トルシエにいた

[ 2016年9月9日 05:30 ]

日本代表ハリルホジッチ監督(左)
Photo By スポニチ

 ひとまず危機は去ったが、問題は取り残されたままである。

 9月6日に行なわれたタイとのW杯最終予選で、日本は2対0の勝利をつかんだ。チャンスを浪費してしまうことでスコアを動かせず、決定的な痛打も浴びせられない展開は、UAE戦と同じだった。

 わずか5日間でシュートの精度が解消されるはずないから、これはまあ、想定の範囲内と言っていい。決定力ではなくチャンスの数で勝負するのは、国際舞台における日本の基本的なスタンスでもある。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のチームに、決定力の高いストライカー以上に必要なものがある。日本人のコーチだ。

 2002年のW杯日韓大会を戦ったフィリップ・トルシエ監督のチームには、山本昌邦コーチがいた。ときに高圧的な態度を取るフランス人指揮官の意図を汲み取り、選手側の声も吸い上げた山本コーチがいなかったら、チームはまとまりを失っていただろう。

 教師のような言動が目立つハリルホジッチ監督は、トルシエ元監督に重なるところが少なくない。日本人コーチ不在のまま最終予選を戦っていったら、チームは袋小路へ迷い込む。

 ハリルホジッチ監督のチームには、彼が連れてきた外国人スタッフがいる。メディアに公開される時間内でトレーニングを見る限り、外国人スタッフと選手はコミュニケーションをはかっている。

 だからといって、選手が本音を明かせるわけではない。「イエス」と「ノー」の中間のような、細かなニュアンスを理解してもらえない怖さは付きまとうものだ。

 日本サッカー協会の田嶋幸三会長は、リオ五輪終了直後に同五輪でチームを率いた手倉森誠氏の代表コーチ就任を望む発言をしていた。

 日本代表がW杯アジア2次予選を戦っていた昨年10月まで、手倉森氏はハリルホジッチ監督のもとでコーチを務めている。監督以下スタッフとも、選手ともコミュニケーションは取れているだけに、代表コーチ復帰に障害はない。選手のコンディションを管理する早川直樹コンディショニングコーチも、リオ五輪をともに戦った仲間である。彼らふたりが揃えば、様々な場面で選手の声を細かく拾っていくことができる。

 西野朗技術委員長も、田嶋会長と歩調を揃えていたと聞く。だが、リオ五輪から最終予選まで時間が短かったことなどから、手倉森氏の入閣を急がなかった経緯がある。リオ五輪から帰国した手倉森氏がインフルエンザを患ったことも、休養を取ってもらったほうがいいとの配慮につながった。

 しかし、事態は切迫してしまった。タイを下して1勝1敗としたものの、最終予選の行方は予断を許さない。W杯でグループリーグ敗退に終わったジーコとザックのチームになくて、トルシエのチームにあったものを、ハリルホジッチ監督のチームに早く加えるべきなのだ。(戸塚啓=スポーツライター)

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