【コラム】戸塚啓

UCL過去最高のファイナル 1998-99マンチェスター・ユナイテッド-バイエルン・ミュンヘン

[ 2019年5月29日 07:00 ]

UEFAチャンピオンズリーグ   マンチェスター・ユナイテッド3-2バイエルン・ミュンヘン ( 1999年5月26日    カンプ・ノウ(バルセロナ) )

 UEFAチャンピオンズリーグ(UCL)の決勝は、17-18シーズンまで26回行われている。試合の数だけドラマが生まれており、記憶の引き出しは溢れんばかりである。ベストマッチを選ぶのはとても、とても、とても難しい。

 そのなかでひとつに絞るなら、僕は1998-99シーズンのマンチェスター・ユナイテッド対バイエルン・ミュンヘンを選ぶ。

 バルセロナのホームスタジアム“カンプ・ノウ”を舞台とした一戦を、僕はメインスタンド最上部の記者席で観ていた。

 20世紀のサッカー界において、トーナメントの決勝は手堅い試合が多かった。UCLは1対0、0対0、1対1といったスコアの試合を量産していたし、代表チームが対戦するワールドカップでも、90年の決勝は1対0で、94年は0対0からPKで決着がついた。複数得点を奪い合う試合は、例外的だったと言っていい。

 開始早々の6分、バイエルンがマリオ・バスラ―の直接FKで先制する。キックオフ直後のざわめきが収まらないうちにスコアが動いたこの試合も、バイエルンが1対0でリードしたまま推移していく。赤い悪魔ことマンチェスター・Uが主将のロイ・キーンとハードワーカーのポール・スコールズを、バイエルンが左サイドバックのビセンテ・リザラズとブラジル人FWエウベルを欠いていたこともあってか、取材ノートに書き記すような場面がなかなか訪れない。

 バイエルンが追加点を、マンチェスター・Uが同点弾を狙う攻防は、後半に入ると少しずつ熱を帯びていく。バイエルンのオリバー・カーン、マンチェスター・Uのペーター・シュマイケルの両守護神が、身を躍らせるシーンが増えていった。

 それでも、スコアは動かない。記者席ではイングランドからやってきたメディアの露骨な苛立ちと、ドイツから足を運んだメディアの控え目な興奮が交錯している。

 ドラマが、前触れなしに訪れた。

 90+1分、ライアン・ギグスのシュートに足を延ばしたテディ・シェリンガムが、右足でネットを揺らしてマンチェスター・Uが同点に追いつく。

 スタジアムの空気が、いきなり変わった。赤いユニフォームを着たサポーターが勢いを増し、カンプ・ノウをホームのような雰囲気に包み込んでいく。後半ロスタイム(当時はアディショナルタイムと言わなかった)を1対1のままで終えれば延長戦へ持ち込めるが、マンチェスター・Uの選手も、サポーターも、決着を先送りすることは望んでいない。このまま引っ繰り返してやるとのエネルギーが、色を持ってバイエルンのゴールへ迫っていくように感じられた。

 ドラマの第二幕が、下りる。

 90+3分、デイビッド・ベッカムの左CKをシェリンガムがヘディングで合わせると、“ベビーフェイスの暗殺者”ことオーレ・グンナー・スールシャールが右足を伸ばしてコースを変える。GKカーンは、ボールを見送ることしかできなかった。

 前後半の攻防をトータルで振り返れば、この一戦より中身の濃いファイナルは他にもある。ただ、かくもスリリングな結末を堪能できた意味で、ベストマッチにあげてもいいだろう。

 ラスト5分の興奮と感動は、20年経ったいまでも色褪せず、今年もまたファイナルへの期待が高まっていく。(戸塚啓=スポーツライター)

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