【コラム】戸塚啓

ブラジルサッカーの神髄

[ 2019年8月8日 18:30 ]

JリーグYBCルヴァン杯/CONMEBOLスダメリカーナ王者決定戦   湘南 0-4 アトレチコ・パラナエンセ ( 2019年8月7日    BMWス )

湘南に勝利し、喜ぶアトレチコ・パラナエンセの選手ら
Photo By 共同

 ブラジルサッカーの神髄を見た。

 8月7日に行われた湘南ベルマーレとのカップ戦で、アトレティコ・パラナエンセが来日した。昨年のルヴァンカップ王者とコパ・スダメリカーナ王者が、一発勝負で激突したのである。

 ブラジルからの来訪者に対する期待は、控え目なものだっただろう。チーム全員がハードワークする湘南のスタイルがどこまで通用するか、というのがこの試合の一般的な興味だったに違いない。

 リーグ戦の合間に組まれた試合ということもあって、湘南はメンバーをガラリと変えていた。直前の鹿島戦に先発した選手はふたりだけだった。

 そうはいっても湘南である。足を止めずに走り、攻守の切り替えに聡く、球際で戦えなければ、このチームではプレーできない。アトレティコ・パラナエンセに、どこまで食らいつくことができるのか──。

 結果は予想外だった。

 0対4というスコアに驚かされたのではない。アトレティコ・パラナエンセの選手たちが見せたサッカーが、とにかく見事だったのだ。

 1対0で折り返した後半から、両チームの違いが際立っていく。アトレティコ・パラナエンセは、あらゆる意味で判断に間違いがない。無理をしてでも突破したら局面が一気に打開できる、といった場面でぐぐっと前へ出ていく。そこでボールを失ったらピンチに陥る、という局面では相手に渡さない。GKも加わって後方からビルドアップをするのが彼らのスタイルだが、場合によっては前方に蹴り出す選択もする。

 スピードを上げるべきところと、慌てなくてもいいところの使い分けも絶妙だった。一人ひとりの選手は一定水準以上の技術を持っているが、技に溺れるところがない。シンプルにさばいたほうがいい場面、味方を使ったほうがいい場面では、迷わずにパスをする。

 そうやって主導権を握りながら、チャンスの芽は見逃さないのだ。「ここだ!」という場面では、全員が迷うことなく相手ゴール前へ飛び出していく。殺到する、という表現が当てはまる勢いで。

 試合後の記者会見で、湘南のチョウ貴裁(チョウキジェ)監督は「やってはいけないことが多い湘南ベルマーレ、やってはいけないことがほとんどないアトレチコの選手、というふうに僕は感じました」と話した。

 致命的なミスにはならなかった、ピンチにはつながらなかった、けれど実は選択ミスだったというプレーも含めて、アトレティコ・パラナエンセのン選手は「やってはいけないこと」をほとんどしていないのである。

 日本で良く使われる「連動性」とか「連携」といったものを、ブラジルからやってきた彼らはもっと高い次元で表現していた。練習で練り上げられた部分はもちろんあるのだろうが、それ以上に一人ひとりが生まれながらに持つ感度のようなものが、このチームのサッカーの本質を形作っている気がする。指導者に教え込まれたものでなく、見て、聞いて、身体で覚え込んできた嗅覚が、チャンスとピンチをいち早く察知することにつながっているのだろう。

 試合そのものは、残念ながら多くの注目を集めなかったかもしれない。分かりやすいビッグネームもいなかった。それでも、ブラジルサッカーの神髄に触れることのできた一戦は、意義深いものだったのである。(戸塚啓=スポーツライター)

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