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【コラム】戸塚啓

2016年日本サッカー界

[ 2016年12月22日 21:00 ]

表彰式で悔しそうな鹿島・石井監督
Photo By スポニチ

 鹿島アントラーズのクラブW杯優勝は、日本サッカー界に少し早く届いたクリスマスプレゼントだった。一時はリードを奪い、延長まで持ち込んで「レアル・マドリードを本気にさせた」と評されるが、何よりも素晴らしいのは「本気のレアルと戦えた」ことである。

 世界のトップ・オブ・トップの「本気」を、肌で感じた日本人選手がJリーグにいる。鹿島の選手のプレーや発言を通して、世界基準が広がっていく。リーグ全体の共有財産となる。それこそが、最高のクリスマスプレゼントなのだ。

 2016年の日本サッカー界を美しく締めたのが鹿島なら、16年の幕開けを力強くしたのはU−23日本代表である。1月に行なわれたリオ五輪アジア最終予選で、手倉森誠監督が率いるこのチームは初優勝を飾った。

 あえて「初優勝」としたのは、今回から五輪予選がセントラル方式となったからである。グループリーグをくぐり抜け、ノックアウトステージを勝ち上がっていくセントラル方式は、ジェットコースターに乗りながらサスペンスドラマを観るようなものである。ハラハラドキドキが止まらない。

 とりわけ、ノックアウトステージのスリルと恐怖と、勝ち上がっていくことで生まれる疾走感は、この種の大会でしか味わえないものがある。出場権を獲得しなければ、日本サッカーの歴史に黒い染みを落としてしまう──全身を焼かれるようなプレッシャーを受け続け、それでも五輪の出場権を勝ち取り、それだけでなくアジアの頂点にも立った手倉森監督とその仲間たちの功績は、2016年の最後に改めて称賛されるべきである。

 五輪出場の歴史を彼らがつないだからこそ、U−16とU−19の代表は自信と責任感を強めることができた。U−17とU−20のW杯出場をつかみ、東京五輪への強化に持続性が生まれたのである。

 もっと言えば、最終予選と五輪本大会で逞しさを増したU−23世代は、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が率いる日本代表も活性化した。浅野拓磨がA代表の攻撃陣に食い込み、遠藤航、久保裕也、大島僚太、植田直通らも代表定着を射程としている。

 大会前は厳しい評価を受けながら、周囲の不安を称賛へと変えた手倉森監督のチームこそは、2016年の日本サッカー界に強力な推進力をもたらした。新しい年の足音を聞きながら、彼らの功績をいま一度讃えたい。(戸塚啓=スポーツライター)

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