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【コラム】戸塚啓

VAR ビデオ・アシスタント・レフェリー

[ 2017年7月21日 05:45 ]

 VARという3文字は、どこまで浸透しているだろう。「ビデオ・アシスタント・レフェリー」へ、すぐに結び付けられる人は少ない気がする。

 VARには昨年のクラブW杯で触れた。鹿島アントラーズのゲームで、VARによって試合が止まった。ゲームが止まってしまうことへの抵抗を抱えていたが、それほどストレスを感じなかった。流れのなかで見落とされていたプレーを再確認することで、むしろ納得感が増した。

 先のコンフェデ杯でも、VARは活用された。ゴールが取り消されることもあったが、選手が主審に詰め寄ることもなかった。

 VARの導入が慎重に進められているのは、試合が止まることへの拒否反応が理由だろう。サッカーが持つスピード感やダイナミックさが、映像による確認で削がれてしまうとの危惧は根強いと感じる。誤審もまた試合の一部、という考え方もありそうだ。

 他でもない僕自身、ミスジャッジはゲームの一部だと理解してきた。ミスジャッジをした審判が、試合中にバランスを働かせることもある。少なくとも試合数の多いリーグ戦では、特定のチームが著しく不利益を被ることはないと考えていた。

 とはいえ、審判を補助するシステムがこれだけ発達してきたのであれば、使ったほうがいいだろう。スポーツとテクノロジーは、いまや密接な関係にある。

 ラグビーのトップリーグやスーパーリーグでは、「TMO」と呼ばれる「テレビジョン・マッチ・オフィシャル」が活用されている。混戦のなかでトライが生まれていたのか、ボールをこぼす前にトライをしていたのか、といった微妙なジャッジは、映像を繰り返しチェックすることで確度が高まる。スタジアムのオーロラビジョンに同じ映像が映し出されるので、TMOの過程を観衆も共有できる。

 先週末に行なわれたスーパーラグビーのサンウルブズ対ブルーズ戦でも、TMOを受けてのトライがあった。ホームのサンウルブズにトライが認められた瞬間、スタンドに熱狂が駆け抜けていった。

 流れのなかで「トライだ!」と興奮した観衆は、TMOでもう一度拳を握っていた。〈一粒で二度美味しい〉時間を、過ごすことができたのだった。ちなみに試合は、サンウルブズが48対21でブルーズを下し、シーズン最終戦で2勝目をマークしている。

 ここ最近のJリーグを見ていると、明らかなミスジャッジが勝敗に大きな影響を及ぼした試合がある。長いリーグ戦の1試合とはいえ、優勝、残留、昇格などを巡る争いは、勝点「1」や「2」の違いで運命が分かれることがほとんどだ。J1昇格プレーオフは、リーグ戦の上位チームのホームで行われる。ミスジャッジで勝点を取り逃し、アウェイで戦うことになったりしたら、当事者はたまったものではないだろう。

 J1リーグの上位チームが得る理念強化配分金は、順位がひとつ違うだけで金額が大きく変わる。不可解なジャッジで勝点を伸ばせず、配分金の受取額が減ったり無くなったりしたら、クラブによっては死活問題だ。

 VARというテクノロジーの活用は、時代の流れと言っていい。運用に時間を必要とするなら、まずは追加副審の導入を検討してほしいものである。(戸塚啓=スポーツライター)

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