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【コラム】戸塚啓

競技を超えたマーケティング スポーツ観戦の一括した窓口

[ 2021年2月17日 09:00 ]

豊田スタジアム
Photo By スポニチ

 サッカーJリーグの名古屋グランパスとラグビートップリーグのトヨタ自動車ヴェルブリッツが、マーケティング連携パートナーシップを締結した。

 具体的に何をするかというと、チケットとグッズの販売、ファンクラブ運営などに関する業務委託と受託連携となっている。簡単に言えば、「一緒にできることは一緒にやって、一緒に売り上げを増やしていこう」ということだ。

 名古屋の主要株主はトヨタ自動車なので、両チームは兄弟のようなものだ。練習グラウンドも同じ敷地内にある。ホームゲームは地方開催を除いて、基本的に同じスタジアムで開催している。パートナーシップを結ぶのが遅かったぐらいだろう。

 名古屋とトヨタのように親会社が同じではなくとも、リーグ戦を同じスタジアムで開催するサッカーチームとラグビーチームはある。現状では各チームが複数のスタジアムを使用しているトップリーグは、22年1月の新リーグ開幕から各チームのホームスタジアムを明確化する。

 同じスタジアムを使うのだ。「どうしたら来場者数を増やせるか」という悩みは共通なわけで、「アイディアを出し合って一緒にモノを売る」という発想があっていい。今週のJリーグの会場で、来週のラグビーのチケットを売るといった取り組みが、当たり前のものとして行なわれていくべきだろう。

 個人的に欲しいなと思うのは、「スポーツ観戦の一括した窓口」だ。

 コロナ禍以前のある体験を紹介したい。

 サッカーのナイトゲームを観戦するために、東京から大阪へ移動した。ナイトゲームなので試合当時は宿泊しなければならないが、僕は朝から移動したりはしない。19時キックオフなら早くても15時、遅ければ17時ぐらいに、新大阪駅か伊丹空港へ着く。

 現地へ着いて公共交通機関に乗っていると、車内吊りポスターにバスケットボールのBリーグの告知があった。スマートフォンで調べてみると、トップリーグもやっていた。午前中のうちに大阪に来ていれば、少なくともふたつの競技を見ることができて、翌日の帰京を午前中ではなく夕方にすれば、さらにもうひとつ別の競技が観られる、ということがあった。

 あらかじめ調べていなかった自分の責任である。そのうえで言うと、「ある日の東京でどんなスポーツが開催されるのかが、まとめてチェックできるホームページなりアプリがあったら便利だな」と思ったものだ。

 各種のホームページやアプリは速報に力を入れているが、競技をまたいで観戦を誘導するようなものは、まだまだ掘り起こされていないと感じる。ニーズがないから掘り起こされていないのかもしれないが、興行主たるチームにはもったいない状況だろう。

 野球が好きだがサッカーも時間があれば見るとか、サッカーとラグビーのどちらも好きだといった方は必ずいる。そして、同じエリアでふたつの競技を見られることを周知できれば、新たに呼び込める観客がいるに違いない。

 出かけた先で色々なスポーツを観たいと僕は、サブスクがあったらいいなと思う。たとえば月に2000円とか3000円で複数のスポーツを観戦できるなら、「ちょっと加入してみようかな」と考える。「興味がないわけではないけれど、チケットを買ってまで見るほどではないかな」という競技でも、「サブスクでまとめて見られるなら、一度行ってみようかな」という気持ちになる。サブスクによって現地観戦のハードルが下がるなら、競技の主催者側にとっても嬉しいはずだ。

 新型コロナウイルスの第三波にある現在、緊急事態宣言が出ている都道府県では不要不急の外出自粛が強く求められている。スポーツ観戦の環境は厳しく、この状況は今後しばらく続くだろう。

 ワクチンによって感染拡大が収束しても、テレワークと地方移住の流れはおそらく止まらない。コロナ以前のやり方では、スポーツを生で観てもらうことは難しい。競技の垣根を越えてアイディアを出し合い、スポーツというコンテンツの価値を高めていく必要があると思う。(戸塚啓=スポーツライター)

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