【コラム】戸塚啓

評判高い日本代表 アジアのパワーバランスは!?

[ 2019年1月24日 19:00 ]

ベトナム戦に向けて調整する日本代表
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 アジアカップは22日にベスト8が出揃った。現地では日本の評判が高い。グループステージ開幕前から、スタジアムのメディアセンター周りで「決勝はイランと日本じゃないか」と声をかけられたものだった。

 スタジアム周りと書いたのは理由がある。日本の優勢を予想していた人々は、必ずしもチームやメディア関係者ではないからだ。詳細な分析にもとづいた予想ではなく、ロシアW杯でベスト16入りしたとか、アジアカップで最多4度の優勝を数える、といったことを裏付けにしているのだろう。

 私たち日本人からすれば、裏づけとしても根拠としても心もとない。だが、私たちが考える以上に、歴史は意味を持っていると感じる。

 06年9月のアジアカップ予選、対サウジアラビア戦に0対1で敗れた直後、同国のメディアから「やっと日本に勝てたよ」と言われたことを思い出す。2000年のアジアカップで日本に1対4、0対1と連敗したことで、彼らは日本を強烈に意識するようになった。06年9月はイビチャ・オシム監督(当時)の就任直後で、チーム戦術もメンバーも固まっていなかったのだが、日本の事情はともかく勝ったという事実がサウジのメディアを喜ばせた。もちろん、選手たちも。

 次の対戦は同年11月だった。札幌へ乗り込んできたサウジは、日本の返り討ちにあう。1対3で敗れた。

 それだけに、翌年7月のアジアカップ準決勝の勝利には、選手も、メディアも狂喜した。1年前のジェッダで笑顔を向けてきたサウジ人記者は、「また負けるかもしれないと思っていたから、ホントに、ホントにハッピーだ」と、当時よりもさらに大きな笑みを浮かべたものだった。

 互いのメンバーは変わっても、記憶は残る。とりわけ敗戦の記憶は色濃い。

 過日の日本戦で、サウジは70パーセントを超えるボールポゼッションを記録した。しかし、勝ったのは日本だった。

 サッカーの監督なら、選手なら、自分たちでゲームを支配したいと考える。ポゼッションスタイルはその有効な手段であり、サウジはベルト・ファンマルワイクが監督になった15年9月から、ボールを保持するサッカーへ転換していった。

 日本がポゼッションスタイルを志向するようになったのは、韓国やイランにフィジカルで劣勢を強いられていたからであり、日本人選手がボールを扱う技術に長けていたからだった。ポゼッションとはすなわち、日本人選手の特徴を生かすことと同義だった。

 それでも、ポゼッションだけでは世界で結果を残せない現実に何度も直面した。先のロシアW杯でようやく、ポゼッションとタテに速いサッカーを織り交ぜたスタイル構築の足掛かりを得た。ポゼッションのスタートは1992年のハンス・オフトの監督就任だったから、実に四半世紀の時を経てようやく日本らしいスタイルが見えてきたことになる。

 サウジはどうだろうか。

 ファンマルワイクの後を受けたファン・アントニオ・ピッツィは、日本戦の敗退を受けて辞任した。後任はまだ明らかになっていないが、サウジはこれからもポゼッションスタイルを選ぶのだろうか。それとも、長くチームを支えてきたカウンタースタイルへ回帰するのだろうか。

 アジアのベストチームのひとつと見なされる日本を、ポゼッションで圧倒したのだ。アジアカップ敗退をきっかけに、世代交代を急ぐべきタイミングでもない。選手心理を探れば、同じスタイルのサッカーを求めたくなるだろう。

 だが、ボールを保持するのは勝つための手段である。目的ではない。そして、ボールを持てることに選手も、メディアも満足してしまう時代が、私たち日本にもあった。

 その意味では、サウジよりも東南アジアのチームに、現時点で可能性を感じる。

 タイやベトナムらはフィジカルに恵まれていないが、基本技術は以前からしっかりしている。アジアにおけるそもそもの立ち位置はボールを持たれる側で、現在もその立場に変わりはないものの、個の力で局面を打開できたり、打開はできなくてもチームを落ち着かせたりできる選手が登場してきている。カウンターに軸足を置きながら、ポゼッションもできる準備が整ってきた、と言えばいいだろうか。

 ベスト8の顔ぶれを見る限り、アジアのパワーバランスは従来と変わっていない。ロシアW杯に出場した日本、韓国、イラン、オーストラリアが先行し、サウジアラビア、イラク、カタールらが追いかける。元日本代表監督のザックことアルベルト・ザッケローニが率いるUAEは、組み合わせに恵まれてのベスト8入りだ。

 勢力図が書き換えられるとしたら、東南アジア勢の台頭によるものだろう。その時、日本はどうするのか。アジア新時代の到来を、私たちも予見しておかなければならないだろう。(戸塚啓=スポーツライター)

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