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【コラム】戸塚啓

感染予防に尽くしているJリーグ

[ 2020年7月16日 20:00 ]

 新型コロナウイルスの感染拡大防止に沿ったJリーグの運営は、これまでまったく違うものとなっている。

 6月27日の再開から、J1とJ2の3つの試合会場に出かけた。メディア受付の前に検温をして、問診票を提出して、取材パスを受け取る。問診票は決められたフォーマットで2週間前から体温を記入し、咳が出ていないかと味覚嗅覚の異常がないかの確認や、家族や同居人の健康状態をチェックする。また、取材申請14日前までの海外渡航の有無を記入し、当日の移動手段も書き込む。

 J2東京ヴェルディがホームゲームを開催した味の素スタジアムは、受付が無人だった。いつもなら2、3人が対応しているのだが、担当者はテレビ画面の向こう側にいる。

 自粛期間中にリモートで飲み会をやり、ZOOMでの取材が増えていることもあって、対面ではないやり取りにも違和感は覚えなかった。ちょっと神経質かなとも思うのだが、人と人との接触を減らすことができるやり方は、「感染しない、観戦させない」意味では理に適っている。行列ができた場合に備えて、並ぶ位置がマークしてあるのもいい。

 取材パスを受け取ったら、そのまま記者席へ向かう。三密を防ぐ目的から、記者控室は用意されていない。記者席は通信社や新聞社はあらかじめ指定で、フリーランスは自由席に座るのがこれまでの光景だったが、全席指定となっている。ソーシャルディスタンスを確保するためで、隣と同列には座らないように市松模様に配置される。

 15日の東京V対ヴァンフォーレ甲府戦は試合前から霧雨に見舞われ、記者席にも雨が吹き込んで三分の一ほどしか機能していなかった。傘をさして座る記者もいたが、僕は記者席に近い一般席に座った。入場者数に上限があるいまだからこその緊急避難だった。

 メンバー表、ハーフタイムの監督コメント、公式記録は配布されず、自分のパソコンや携帯でチェックする。必要な情報をノートに書き写すには、紙でもらったほうがいい。ただ、ペーパーレスが進められていく時代に、メンバー表などを紙で用意するのが果たしていいものかどうか。クラブ側は通信環境を整え、あとは個人で検索するという対応でいいのだろう。

 試合後の取材はZOOMで行なわれる。これもかなり馴染んできた作業だが、囲み取材のような余白がないので、標準的なやり取りに終始してしまいがちだ。勝因は、敗因は、初出場の選手の評価は、次節への修正ポイントは……といったぐあいである。

 リモートマッチと名付けられた無観客試合は、2節分だけで終わった。今月10日からは観客を入れて行なわれている。

 スタンドに空席が目立っていても、観客の力はやはり大きいものだと感じる。コールリーダーのもとでゴール裏のサポーターが一体化することも、フラッグやマフラーが振られることがなくても、観客がいることで試合は盛り上がり、引き締まり、熱を帯びていく。一つひとつのプレーに反応する観衆の拍手は、自分に向けられているものでなくとも心地好い。

 ところで、東京の新型コロナウイルス感染者は、先週から一気に増えている。爆発的な増加と言ってもいい。東京だけでなく神奈川、千葉、埼玉にも広がり、関西圏でや北海道も増加傾向にある。Jリーグのクラブのホームタウンに関わるエリアばかりだ。

 いつから再開するのか、いつから観客を入れるのかなどを、Jリーグは政府の方針に従って決定してきた。東京を中心とする感染者がこのまま増え続けていけば──はっきりとした対策を講じなければ、減ることはないだろう──大規模イベントの自粛要請などが発令されるかもしれない。

 自粛の要請をするのであれば、業種や業態を見極めてほしい。Jリーグのスタジアムを視察してもらえれば、感染予防に尽くしていることが分かってもらえるはずだ。そのうえで、地域ごとに対応を検討してほしいと思う。(戸塚啓=スポーツライター)

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