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【コラム】戸塚啓

“クラシコ・デル・アトランティコ” ブラジル対アルゼンチン

[ 2019年7月4日 16:00 ]

南米選手権準決勝   ブラジル2-0アルゼンチン ( 2019年7月2日    ベロオリゾンテ )

<ブラジル2-0アルゼンチン>先制弾を決めたブラジル代表FWジェズス
Photo By AP

 それは、壮絶で美しいドラマだった。

 南米王者を決めるコパ・アメリカは、日本時間の7月3日午前に準決勝の第1試合が行われた。ブラジル対アルゼンチンの“クラシコ・デル・アトランティコ”である。

 現代サッカーは戦術的要素が色濃い。洗練されたシステムを持つチームが練度を高め、ハイレベルな個人が化学反応を起こしていく。

 ブラジル対アルゼンチンの一戦も、戦術的、技術的なレベルはもちろん高い。ただ、それだけではないのだ。

 言うなれば、むき出しの闘争心の格闘である。それも、真正面から、壮絶なまでに。インテンシティと言われるプレーの強度は、キックオフ直後から最高値を弾き出す。

 どちらのチームの選手も、身体を投げ出すことにためらいがない。背中で滑るような深くて鋭いスライディングの応酬である。守備のタスクを軽減されているリオネル・メッシも、ルーズボールの奪い合いでは身体を投げ出す。プライドや意地がぶつかり合うとの表現は、こういった試合にこそふさわしい。

 舞台となったエスタディオ・ミネイロンには、ブラジルにとって悪夢の記憶が刷り込まれている。14年W杯の準決勝で、ドイツに1対7の歴史的大敗を喫したスタジアムだからだ。

 ロシアW杯予選のアルゼンチン戦は、奇しくもエスタディオ・ミネイロンで行なわれた。ブラジルは3対0で快勝しているが、この試合にもし負けるようなことがあれば、悪夢の記憶が呼び覚まされる。4大会ぶりのコパ・アメリカ優勝を手繰り寄せるためにも、負けられない一戦である。

 試合は前半19分に動く。ブラジルが動かした。

 右サイドバックのダニエウ・アウヴェスが、相手の守備を剥がしてアタッキングサードへ侵入する。右サイドへ流れていたCFのロベルト・フィルミーノへパスをつなぐと、グラウンダーのラストパスがゴール前へ通る。フィルミーノと入れ替わるように右ウイングからスライドしていたガブリエル・ジェズスが、フリーでプッシュした。

 ブラジルが攻め、アルゼンチンがしのぐ基本的な構図は、その後も変わらない。前半はこのまま1対0で終わるが、ピッチ上には予断を許さない空気が立ち込めている。

 アルゼンチンが獰猛な牙を剥いたのは、後半に入った58分だった。敵陣でボールを引っかけて攻守を入れ替え、メッシがペナルティエリア左から左足を振り抜く。GKアリソンのセーブを逃れた一撃は、しかし、左ポストに弾かれた。

 ブラジルは鋭利なカウンターを持つ。リードする宿敵が何を狙っているのかは、アルゼンチンも分かっていたはずである。ただ、追いかける立場である以上は、攻めなければならない。前半よりも攻撃に人数を割かなければならない。

 71分、ブラジルが2点目を奪う。メッシを包囲してラストパスを制限すると、奪ったボールをG・ジェズスが自陣からドリブルで運ぶ。一気のシフトアップでペナルティエリアまで侵入した背番号9は、急激な切り返しからフィルミーノへラストパスを送る。ゴール前で待ち受けた背番号20は、右足で押し込むだけでよかった。

 コロンビア人のロディ・サンブラーノ主審が、この試合最後となる笛を吹く。カナリア色のユニホームは入魂のガッツポーズをし、力強く拳を突き上げた。空色と白のユニホームは、動きを失った。メッシもピッチに立ち尽くす。

 南米の二大巨頭が繰り広げる真剣勝負は、いつだってドラマティックだ。生々しいまでの感情がピッチ上で交錯するからこそ、観る者を惹きつけて離さないのである。(戸塚啓=スポーツライター)

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