【コラム】戸塚啓

「海外」というフィルター プレーのみで評価を

[ 2017年4月30日 17:00 ]

 蹴って欲しかったな、と思う。

 4月22日に行なわれたドイツ・ブンデスリーガのバイエルン対マインツ戦で、武藤嘉紀がPKを獲得した。だが、ペナルティースポットに立ったのは彼ではない。ディフェンダーのダニエル・ブロジンスキだった。

 冬の移籍市場でヴォルフスブルクへ移籍するまで、マインツのPKはユヌス・マリが任されていた。高精度のプレスキックを蹴るこの25歳は、誰もが認めるキッカーだった。

 マリが新天地を求めてからは、アタッカーのハイロ・サンペイロがキッカーとなった。第20節にストライカーのジョン・コルドバがつかんだPKも、第27節に右サイドバックのジュリオ・ドナーティが獲得したPKも、ハイロ・サンペイロが蹴っていた。

 第30節のバイエルン戦は、ハイロが出場していなかった。このため、ブロジンスキがキッカーを任されたということなのだろう。

 PKキッカーは試合前から決まっている。武藤が引き寄せたPKだからといって、彼がペナルティースポットにボールを置くことはできない。

 そうはいっても、バイエルンとの大一番である。DFに蹴らせるなら武藤に、と考えてしまう。欧州サッカーに君臨する“巨人”からゴールを奪えば、それがPKだったとしても武藤の経歴に箔がつく。だから蹴ってほしいと、僕は考えたのだった。

 一番冷静だったのは、本人かもしれない。

 バイエルン戦にスタメン出場する、PKを獲得するといった現実に、ブンデスリーガをテレビで観ながら育った僕は心が沸き立つ。だが、1992年生まれの武藤は、日本人がヨーロッパでプレーすることを当たり前の事実として受け止めてきた。武藤にとってのブンデスリーガは、ささやかな思い出を刻むような場所ではなく、自らの存在価値を証明するステージだ。王者バイエルンとの一戦だからといって、チームメイトを蹴散らしてPKを蹴るような必要性を、彼は感じなかったのだと思うのだ。

 ヨーロッパを必要以上に特別視しない意味では、久保裕也にも触れておきたい。

 1月に移籍したベルギーのヘントで、久保はゴールを量産している。4月26日のプレーオフ第5節で決めたゴールは、シーズン通算20得点目となった。欧州1部リーグでプレーした日本人では、史上最多得点である。

 ところで、20ゴールという数字は、1月まで在籍したヤングボーイズでの得点を加算したものだ。「欧州1部リーグにおけるシーズン通算20得点」という表記に偽りはないが、二つのクラブをまたいだ記録に久保本人がどれほどの価値を見出しているのだろう。それよりも、ヘントでの残り5試合で2ケタ得点に乗せ、クラブに何かをもたらすことに、彼は意識を注いでいると思う。

 ヨーロッパでプレーする日本人選手のプレーが、日本ではとても眩しく映る。ただ、過剰に持ち上げるのはどうか。「海外」というフィルターを取り除いて、純粋にプレーで評価するべきだろう。(戸塚啓=スポーツライター)

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