藤井竜王の1分返し 前例離れた渡辺王将37手目▲8八銀に△4一王「自然で、有力だと思いました」

[ 2022年2月12日 05:30 ]

第71期ALSOK杯王将戦第4局第1日 ( 2022年2月11日    東京都立川市・SORANO HOTEL )

<王将戦第4局第1日>対局室に向かう藤井竜王(撮影・西尾 大助、会津 智海)
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 第71期ALSOK杯王将戦7番勝負は、開幕3連勝で奪取へ王手をかける藤井聡太竜王が、渡辺明王将の研究手順に1分の即断で応じた。残り少なくなった年度内の対局。逆転での5年連続勝率1位賞へ、勝ち続けるしかない。

 日が沈んだ午後6時、対局室に入った立会人の中村修九段(59)が「封じ手時刻になりました」と切り出した。「封じます」と即応した藤井。本来は、中村からの「次の一手を封じてください」との指示を待って、封じ手の手続きに入る。

 タイトル戦は7度目で劣る経験値、午前9時からの戦いの余韻。19歳の闘志が映る、1日目最後のやりとりだった。「そういう認識もあったんですが…」と藤井は苦笑いした。

 36手目△7六歩に▲8八銀。昨年7月、両者による棋聖戦第3局の唯一の前例を離れた。

 藤井が初タイトルを獲得した一昨年棋聖戦5番勝負。その再戦となった昨年、開幕2連敗で後がなくなった渡辺が繰り出し、敗れた戦型を再投入してきた。

 今回▲8八銀に対する、△4一王(第2図)の考慮時間はわずか1分。手を変えた渡辺の踏み込みについて「自然で、有力だと思いました」。想定の範囲内だったと回想し、渡辺の得意戦法・矢倉の選択についても「あるのかなと思っていました」。

 渡辺の気迫に気迫で応じる「ツバメ返し」ならぬ「1分返し」。響き合う、両者の指し手。「研究を重ねて、両者掘り下げた局面だと思います。この2人の対戦ですから“調べ尽くしてますよ”と言い合っている」。副立会人の佐々木慎七段(42)が棋士心理を解説した。

 藤井は勝てば今年度51勝12敗で勝率・810となる。例年独走状態の勝率1位賞レースにはライバルがいる。39勝9敗で・813。藤井と同学年の最年少棋士・伊藤匠四段(19)が5年連続受賞に立ちはだかる。

 藤井は7番勝負を終えると年度内の対局が3月9日、昇級をかけたB級1組順位戦だけになる可能性がある。残り少ない対局を落とすことは逆転の芽も摘む。「2日目もしっかり考えてやりたい」。優劣不明の終盤戦で、幾度も決め手にしてきた瞬発力。局面も賞レースも、静かに反撃機をうかがっていた。

 《封じ手は》
 ▼立会人・中村修九段 △7六歩。7筋から攻めるしかないので、その一手しか考えられない。
 ▼副立会人・佐々木慎七段 △7六歩。受ける手はないので、急所の7筋に足がかりをつくる狙い。
 ▼記録係・鈴木麗音初段 △5三角。▲2一歩成に備えつつ、3筋にも角の働きを利かせる一手。

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