【内田雅也の追球】横浜で刻む「慎其独」の教え 佐藤輝の復調なくして「アレ」の大願なし

[ 2023年4月15日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3―8DeNA ( 2023年4月14日    横浜 )

「野毛おでん」の店内に掲げられた「慎其独」の木版
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 横浜スタジアムのある関内に創業120年の老舗「野毛おでん」がある。1903(明治36)年、屋台で始めた。黒いつゆがしみこんだ大根や日高昆布など昔も今も変わらぬ味で人気がある。

 店内に秩父・三峯神社から贈られた「慎其独」の木版がある。もとは四書『大学』にある「君子必慎其独」(君子は必ずその独りを慎む)。誰にも見られていない独りの時こそ、その言動を慎む。「心にとめています」と店員が話していた。

 さて、打撃不振で2試合連続で先発メンバーから外れた阪神・佐藤輝明である。よく言われるのが「練習嫌い」。引退した福留孝介や糸井嘉男ら先輩から「もっと練習しろ」と厳しい言葉をかけられた。本当に練習しないのだろうか。

 本塁打王、首位打者ともに3度の大下弘(東急―西鉄)も「練習嫌い」で通っていた。現役晩年の58年、監督・三原脩は大下から「どうしたら打てますか」と相談を受けた。「手を見せてごらん」と言い、差し出された手のひらを見て驚いた。<自分ひとりのときは、それこそ目をこらし、血のにじむほど力をこめてバットを振っていたに違いない>と三原が著書『風雲の軌跡』(ベースボール・マガジン社)で記している。

 この夜、佐藤輝の出番は青柳晃洋がKO降板となった5回裏2死二塁、ダブルスイッチで三塁に入った。いきなり来た三塁線ゴロを横っ跳び好捕して失点を防いだ。

 7回表無死一塁での打席では高いバウンドで一塁頭上を越える右前打となった。内容はともかく、ほしい結果は出た。一塁上で両手をたたいた。

 試合はエースが乱れ逆転で敗れた。微妙な制球が……先制後に追加点が……と言っても始まらない。こんな試合もある。

 ただ、負けても「守れているうちは大丈夫」というのが岡田彰布の野球だ。前回監督当時、ヘッドコーチを務めた吉竹春樹が話していた。

 ならば、先に書いた佐藤輝や木浪聖也の逆シングル好捕・併殺(1回裏)、シェルドン・ノイジーの好送球(2回裏)、近本光司の背走好捕(6回裏)……など、好守備を見るべき点としたい。

 それよりも佐藤輝を思う。彼の復調なくして「アレ」の大願はないとみている。昨年5月15日に勝ってから9連敗となった横浜の夜。老舗の「慎其独」の教えを胸に刻みたい。=敬称略=(編集委員)

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2023年4月15日のニュース