【内田雅也の追球】“響きあう”人の連携――阪神、開幕への準備

[ 2020年6月6日 07:00 ]

練習試合   阪神4―7ソフトバンク ( 2020年6月5日    甲子園 )

5回1死、三森の一塁への打球でベースカバーに走る西勇
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 作曲家・古関裕而夫妻をモデルにしたNHK朝の連続テレビ小説(朝ドラ)『エール』を見ている。自粛期間中から日課にしていた。

 5日で終わった第10週のテーマは「響きあう夢」だった。妊娠した妻の音が「おなかの子に会いたい……歌も諦めたくない……」と葛藤し、やむなく『椿姫』の主役を降板する。涙する音を裕一が慰める。

 「僕が君の夢を預かって大事に育てる。君の夢は、僕の夢だ」そして「僕の作った曲を君が大きな舞台で歌うという僕の夢をかなえてほしい。何一つ諦める必要はない。そのために僕がいる」。

 ともに音楽にかけた夢が“響きあう”と知るシーンだった。
 人と人は本来“響きあう”ものかもしれない。数年前、娘の女子校入学式に出席して聞いた校長先生の話を思い出した。人を意味する英語パーソン(person)の語源をたどれば、ラテン語のペルソノ(persono)に行きつく。perは「~を通して」で、sonoは「音」という意味という。「つまり、人は人と交わり、深く響きあうということになるでしょう。皆さんも出会いを大切に――」といった話だった。

 人間的と言われる野球も人と人が交わり、響きあう競技だと言える。団体競技として、チーム内の相手を理解し、刺激しあって強くなる。

 そこで、いわゆる連携が肝心となる。その点でこの日の練習試合で一つ、いい実戦練習の機会があった。

 5回表1死、三森大貴の一、二塁間ゴロに、一塁手ジャスティン・ボーアが飛び出しよく好捕、一塁ベースカバーの西勇輝に送球したが、間一髪セーフとなった。

 ボーアの動きも西のカバーも良かった。ただし二塁手・糸原健斗がすぐ後方で捕球できる体勢でいた。ボーアは糸原に任せるべきだったろう。

 この手の投内連係はキャンプで積んでいたが、長い自粛期間もあり、感覚も鈍っていることだろう。開幕に向け、いま一度、体で覚えたい。

 試合後、頭上で「ストロベリームーン」と呼ばれる6月の満月が眺めるなか、守備練習を行っていた。久しぶりのナイター照明の下、夜空に上がるフライボールの感覚も、内外野連携の感覚も取り戻していきたい。

 無観客で、よく聞こえる声の連携も必要だ。それ以上に心と心で“響きあう”間柄でありたい。

 かつてパ・リーグで「灰色」と呼ばれた阪急、「お荷物」と呼ばれた近鉄を球団創設初優勝に導いた西本幸雄は「団体の強さをいかに発揮させるか」と語った。「いわしも大群となると力が出る。みんなが心の底から力を合わせることによって、大きなことを成し遂げることができるんや」

 古関裕而は阪神球団歌『阪神タイガースの歌』(通称「六甲おろし」)の作曲者でもある。『エール』の裕一と音のように、心と心を響きあわせ、美しい音楽を奏でるような関係を目指したい。=敬称略=(編集委員)

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