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【コラム】戸塚啓

勝ち続けることの難しさ

[ 2016年3月4日 05:30 ]

 勝ち続けることの難しさを、感じざるを得ない。

 なでしこジャパンが苦しんでいる。リオ五輪のアジア最終予選で、2試合連続で勝利を逃してしまった。6か国による総当たりリーグ戦で、まさかの5位に沈んでいる。

 オーストラリアとの初戦は、1-3で完敗した。内容的にも物足りなさが残ったが、手も足も出なかったわけではない。チャンスは作っていた。

 不運にも見舞われた。日本のパスが主審に当たり、そこからカウンターを浴びて失点した。

 韓国と激突した第2戦は、初戦から内容の改善が見られた。変わらなかったのは決定力不足で、時間の経過とともに連動性が欠けていってしまった。

 1-0で迎えた後半42分の失点は、06年のW杯ドイツ大会を思い起こさせた。日本対オーストラリア戦である。

 1-0でリードして迎えた後半39分に、GK川口能活がロングスローに反応して飛び出す。だが、ペナルティーエリア外へ弾き出せなかった。こぼれ球も味方選手がクリアしきれず、ティム・ケーヒルに蹴り込まれてしまった。

 この試合の川口は、何度となく決定機を阻止していた。終盤までリードを保てたのは、彼のおかげだったと言っていい。だからこそ、川口の身体には充実感と責任感が満ち溢れ、ロングスローへ飛び出していったのだと思う。

 韓国戦の福元美穂も、06年の川口に似たメンタリティに駆られていたのではないか。後半25分に韓国のPKを阻止していたことで、チーム最年長としての責任感や使命感は、さらに強固なものとなっていたに違いない。同時に、前向きなメンタリティが高まっていった。その結果が、失点につながる飛び出し──CBと接触し、一度はキャッチしたボールをこぼしてしまった──だったのではと想像する。

 佐々木則夫監督と選手の苦悩をテレビ越しに観ていると、男子サッカーのスペイン代表が重なる。

 ルイス・アタゴネスとビセンテ・デルボスケのもとで、スペインはユーロ2008、W杯南アフリカ大会、ユーロ2012で頂点に立った。ところが、経験豊富なメンバーで臨んだW杯ブラジル大会では、オランダとチリに敗れて1次リーグで敗退した。

 佐々木監督のチームは、11年の女子W杯で初優勝し、翌年のロンドン五輪で銀メダルを獲得し、15年の女子W杯でも準優勝を飾った。今回のメンバーには、3つの大会を知る選手がほぼ半分含まれている。かといって、高齢化が極端に進んでいるわけではない。むしろ、キャリアのピークにある選手が多い。澤穂希さんの引退も、個々の自覚を促していると想像する。

 成熟された組織と高い経験値を持つ今回のチームを、対戦相手の視点から見てみる。

 分かりやすいチーム、と言うことはできそうだ。アジアにおける日本は、いまでも難しい相手だろう。ただ、対戦相手からすると驚きが少ないのではないか。

 アジアの女子サッカーは、そもそもレベルが高い。昨年の女子W杯では、オーストラリアと中国がベスト8に食い込んでいる。韓国もベスト16入りした。日本は飛びぬけた強国でない。

 それだけに、試合の流れは小さなきっかけでピッチ上を行き来する。得点機を逃せば、強引に主導権を引き戻すことは困難だ。オーストラリア戦のような不運に見舞われば、さらに雲行きは怪しくなる。

 地力での五輪出場は消滅した。どのような結果になるとしても、最終予選へ向けた強化の検証が必要だ。結果とはいつも、過程を映し出すものである。(戸塚啓=スポーツライター)

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