【コラム】戸塚啓

中距離タテパスの活用 求められる精度

[ 2014年10月15日 05:30 ]

競り合う日本代表DF酒井高徳(左)とブラジル代表DFフィリペ・ルイス
Photo By AP

 「日本人は前を見ない」と言ったのは、現役時代のピクシーことドラガン・ストイコビッチだった。「ボールを持ったときに一番前を見る、意識することで、相手のディフェンダーはタテパスが来るかもしれないと予測する。それが大事なんだよ」と話していた。

 もう20年近く前の話を、シンガポールでふいに思い出した。

 日本対ブラジル戦の前半38分過ぎに、ブラジルのフィリペ・ルイスが自陣左サイドからボールを持ち出した。左サイドバックの彼は、前方をルックアップしながらボールを運ぶ。同サイドの小林が間合いを詰め、柴崎も寄ってくる。フィリペ・ルイスの左前にいるウィリアンには、右サイドバックの酒井高が距離を近づける。日本の選手たちはタテパスを蹴らせないようにしつつ、フィリペ・ルイスからウィリアンへつなげさせない守り方をした。ここでボールを奪うことができれば、人数をかけながら素早く攻撃へつなげることができる。

 フィリペ・ルイスはセンターバックにボールを戻した。無理をしないで下げたというシーンだが、小林、柴崎、酒井高を寄せつけたことで、次のボールの行き先へのプレッシャーが薄くなった。

 試合の流れには、大きな影響を与えていない攻防である。ただ、フィリペ・ルイスが次も同じように持ち出したら、日本はやはりプレッシャーをかけるだろう。かけざるを得ないだろう。ブラジルの左サイドバックは、ボールを持つと「前を見るから」だ。

 アギーレ監督が日本代表にもたらした変化のひとつに、中長距離のタテパスの活用がある。ただ、最終ラインの4人が繰り出すフィードは、どこかぎこちなさを感じさせる。相手からすると分かりやすい、と言ったほうがいいだろうか。タテパスを繰り出すにせよ、横パスやバックパスを選ぶにせよ、相手が思わずボールに食いついたり、相手の想定をこえるようなボールの動かし方が、ウルグアイやブラジル相手になると減ってしまうのだ。

 蒸し暑いシンガポールのピッチでは、1トップの岡崎慎司がポストプレーに奮闘した。サポートに恵まれないなかで、何とかして起点になろうとした。

 しかし、ボールを受ける岡崎の背後には、かなりの確率でミランダが居た。岡崎へのパスが、予想しやすいものだったからだろう。

 中盤を飛ばしたパスをFWに送り、前線に起点を作りたいのであれば、パスの精度はもちろん、FWがマークを剥がしやすいボールの供給も不可欠である。俊敏で活動量の多い岡崎がCBにべったり付かれていた理由は、彼がパスを受ける前の段階にあったはずだ。(戸塚啓=スポーツライター)

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