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【コラム】戸塚啓

アルジェリア、無謀ではなく勇敢なサッカー 劇的変化で16強

[ 2014年7月3日 05:30 ]

世界中に勇敢な戦いを見せたアルジェリア代表
Photo By AP

 グループステージとノックアウトステージは違う。分かりきっていることだが、ベスト8を賭けた争いはやはり高次元だ。グループステージよりも、ワンランク上の攻防が繰り広げられている。

 7月1日のアルゼンチン対スイス戦までに消化されたラウンド16のゲームでは、ドイツ対アルジェリアが群を抜く。コスタリカ対ギリシャやフランス対ナイジェリアのように、前半は得点の予感が漂わないゲームもあるなかで、この試合は序盤から目が離せなかった。アルジェリアが猛烈な勢いでドイツに襲い掛かることで、超一級のエンターテインメントが出来上がっていった。

 初のベスト16入りに満足するところが、アルジェリアにはまったくなかった。それどころか、ドイツ相手に真っ向勝負の撃ち合いを挑んだのである。GKライスの美技に救われたところもあったが、それはドイツも同じだ。

 決定機を許しても、闘争心が萎えることはなかった。ハリルホジッチ監督率いるチームのまっすぐで骨太な攻撃意欲が、日本人の僕にはあまりに眩しかった。

 公式記録に記されたシュートは11対29で、ボールポゼッションも37対63である。だが、数字が示すほどワンサイドだった印象はない。この日のアルジェリアのような戦いこそが、「強豪相手に勇気を持って攻める」ということだろう。

 振り返れば彼らも、日本と同じ黒星スタートだった。ベルギーとの初戦は、試合展開もスコアも日本に共通する。

 違ったのは2戦目に臨む姿勢だ。韓国相手に4点をもぎ取り、勝点3を奪取する。ロシアとの第3戦は序盤に先制点を許す展開となるが、60分に同点へ持ち込んだ。ベルギー戦のアルジェリアが抱かせた印象は、コートジボワール戦の日本とさほど変わらないものだった。相手へのリスペクトが先行していた。

 ほぼ2週間で、アルジェリアはまったく別のチームになった。無謀ではなく勇敢な彼らのサッカーは、間違いなくW杯後につながっていくだろう。

 0-2とされたあとに1点を返したことが、未来を切り開く。1―1から1―2と突き放されたのではなく、2点差をつけられたあとの1点は、相手をつかまえきれなかった悔しさとともに、確かな手ごたえを残すと思うのだ。

 W杯は世界一を決める大会であると同時に、チームを成長させる大会でもある。とりわけ、世界のトップクラスを追いかける国には、チームと個人がたくましくなる格好の舞台だ。

 ドイツをギリギリまで追い詰めたアルジェリアの背中が、いまははるか遠くに感じられる。(戸塚啓=スポーツライター)

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