【だから元気!】中村雀右衛門の活力は「美しいものを眺める」 “温かい無機物”の美しさに触れ刺激

[ 2023年3月3日 06:30 ]

愛用するソニーのα(アルファ)シリーズのカメラを構える中村雀右衛門
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 著名人に健康や元気の秘訣(ひけつ)を語ってもらう企画「だから元気!」。今回は高貴な姫から町娘までさまざまな役を演じこなす女形歌舞伎役者の中村雀右衛門さん(67)です。日々の活力になっているのは「美しいものを眺めること」。最近始めたゴルフで使用するお気に入りのパターや長年愛するカメラを手に、その魅力を熱弁してもらいました。 (構成・吉澤 塁)

 昔から美しいものに引かれるんです。小学生の時にはSL(蒸気機関車)がまだ走っていて、北は北海道、南は九州まで追いかけて写真を撮っていました。今で言う「撮り鉄」ですね。特に車輪と車輪をつなぐロッド。その駆動を眺めるのが大好きでした。

 機械やモノが好きなんです。SLには正確さや力強さがある。でも石炭をくべて走らせるから温かい。無機物の中の温かみがあるものほど美しいと感じるんです。

 そんな中、先代歌舞伎座の建て替えの話が出始めた2010年ごろに再びカメラを手にするようになりました。自分を育ててくれた劇場を記録しようとライカを購入。さまざまな種類のレンズを集めたりと、こだわり始めたら止まりません。

 最近の被写体はもっぱら7歳と8歳と10歳の3匹のワンちゃん。カメラもオートフォーカス機能が優れているソニーのα(アルファ)シリーズに替えました。「アダプター」というものを使えば1930年代のライカのレンズでも使用することができるんです。

 最近は新たな趣味も見つけました。友人の勧めでゴルフをするようになったんです。スコアは100以上。まだまだ上手ではありません。コースを回るのも楽しいのですが、ドライバーやアイアン、パターにさまざまな種類があることに驚きました。やはり集めたくなってしまいますよね(笑い)。特に気に入っているのがゴルフ発祥の地と呼ばれるセントアンドリュースの工房で作られているパター。木目のあるヒッコリー材のシャフトが眺めていて美しい。ボールを打つと金属のシャフトでは味わえないぬくもりが手から伝わってくるんですよ。

 温かい無機物。それは歌舞伎も似ているかもしれません。歌舞伎には美しく見せるための正確な所作や決まった型がある。そこに生身の俳優の持つ温かみが加わることでお客さんに楽しんでいただくことができる。

 「女形役者は60歳を超えてから」とよく言われます。自分も67歳になり一つの役を通してさまざまな表現を見つけることができるようになってきました。ただ、どうしても肉体は衰えてしまう。芸を円熟させると同時に、体力の衰えはできるだけ延ばしていく。簡単なことではありません。

 美しいものに触れて日々、刺激をもらう。それは肉体的にも精神的にも若くあるために欠かせないもの。父(四代目中村雀右衛門さん)は晩年になってもディスコに通い、若いファッションをしていました。その気持ちが今なら分かります。

 「三月大歌舞伎」では、17歳の市川染五郎さんの相手役を務めます。年齢差は50(笑い)。そのためにも見た目の美しさや心のみずみずしさをこれからも磨いていきたいです。

 ◇中村 雀右衛門(なかむら・じゃくえもん)1955年(昭30)11月20日生まれ、東京都出身の67歳。61年に大谷広松を名のり初舞台。64年に「妹背山婦女庭訓」で七代目中村芝雀を襲名。2016年に五代目中村雀右衛門を襲名した。10年に紫綬褒章を受章。趣味はパソコンを自作することなど。屋号は京(きょう)屋。

 ≪自分らしく演じる「三月大歌舞伎」へ抱負≫雀右衛門は、「三月大歌舞伎」(東京・歌舞伎座、3~26日)の第1部「花の御所始末」に出演する。暴君で知られる室町幕府の6代将軍・足利義教を題材とした作品で、今回が40年ぶりの上演。雀右衛門は「当時父が演じていた時の音声が残っているので、参考にしながら今の自分らしさを入れられれば」と語った。松本幸四郎(50)演じる義教が悪役として躍動するが雀右衛門が演じる入江は「作中で数少ない、ごく普通の人」だという。「(幸四郎の)悪魔的な魅力とまた違った女性らしい美しさを表現したい」と意気込んだ。

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