渡辺王将 衝撃!逆襲の1手、63手目「銀の差し出し」に藤井竜王沈黙45分

[ 2022年2月12日 05:30 ]

第71期ALSOK杯王将戦第4局第1日 ( 2022年2月11日    東京都立川市・SORANO HOTEL )

<王将戦第4局第1日>指し手を進める渡辺王将。手前右は藤井竜王(撮影・西尾 大助、会津 智海)
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 渡辺明王将(37)=名人、棋王含む3冠=に藤井聡太竜王(19)=王位、叡王、棋聖含む4冠=が挑む第4局は午後6時、後手の藤井が72手目を封じて指し掛けとなった。開幕3連敗を喫し、後がない渡辺は得意の矢倉戦法を採用。銀のタダ取りを容認する驚異の一手を見せ、自らのペースに引きずり込んだ。第2日は12日午前9時に再開する。

 西の空に沈んだ夕日の残光が多摩の山嶺(さんれい)を鮮やかに映し出す。まるで絵はがきのような光景はしかし、厚いサンシェードに隠されて両対局者の視野に入らない。盤上没我の2人にとっては目の前にある81マスだけが現実の世界。その配置図はねじれた時空のように複雑極まりない局面を指し示している。

 ペースをつかんだのは剣が峰に立たされた渡辺だろう。「だいぶ指し手が進んだので、終盤とまではいかないですが、その手前くらいには行ってますか」と封じ手時点での状況を分析するその口調にはよどみがない。

 昨年の棋聖戦5番勝負第3局を踏襲していく立ち上がりは1日制かと見まがうほどハイペースで手が進む。昼食休憩前までに記録された手数は61。今7番勝負4局目にして最多の数字だ。午後に入り、予定調和にくさびを打ち込んだのは藤井の62手目△4四桂(銀取り)に対する63手目▲7四歩(第1図)。6段目まで進出させ、攻撃要員としての活用を意図した金駒のただ取りを手抜く驚きの指し手は、藤井竜王をうならせるに十分過ぎた。

 「指されてみればなるほどです。7四歩は見えてなかったので(指し掛け時点での)自信はありません」(藤井)

 応手の64手目△3六桂で銀を失っても、その一手に45分を使わせた。直後に2六に飛車を浮かせて桂を奪う。形の上では銀桂交換。一見不利な取引にも思えるが、虎の子の桂を69手目で3四に打ち付け、これを橋頭堡(きょうとうほ)として2二歩と連続攻撃だ。ここでも藤井の持ち時間を32分削り取る。第1日を終えて消費時間の差は渡辺のプラス96分。勝敗とともに過去3局苦しんだタイムマネジメントでも、ようやく「らしさ」を発揮した。先手番として必須の主導権を徐々に握りつつある。

 単独の対局でも番勝負でも先行逃げ切りを棋風とする渡辺にとって、開幕3連敗は全く予想していなかったはずだ。第1、3局は内容的に勝ちがある展開で、並の相手ならシリーズ成績も2勝1敗とリードしていてもおかしくない。体感的に手応えがありながら結果が伴わない不条理さにも、本人は「やることに変わりはない」「特別どうこうということはない」と至って冷静だ。

 08年、伝説の竜王戦で羽生善治名人(当時)に3連敗から4連勝した荒業も「その時と立場も年齢も違いますから」と素っ気ないが、この割り切りぶりが強靱(きょうじん)な精神力の源とも言える。

 「まあ、(11日)夜の間に見通しを立てたいかな、ってところですか」

 諦めたら、そこで試合終了。王者の真価を見せつける仕掛けは完全に整った。

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