勝又清和七段が見た藤井4冠の強さ 豊島と激闘繰り返し進化“人間離れ”した強さに

[ 2021年11月15日 05:30 ]

竜王戦第4局を再開し、封じ手を指す藤井聡太3冠(右)と豊島将之竜王(日本将棋連盟提供)
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 驚異の進化が止まらない藤井4冠。その背景には何があるのか。棋戦の分析や解説でおなじみで、東大では将棋の客員教授も務める現役棋士・勝又清和七段(52)が迫った。

 藤井はタイトルホルダー2年目のジンクスに陥ることなく、この一年でさらに強くなった。昨年末にはDL(ディープラーニング)系のAIを導入。局面を画像として認識し、ルール以外のセオリーを入れず自ら学習して強くなったAIで、形勢判断の精度が格段に良く、相掛かり戦型に強い。藤井はそれまで角換わりを主体に戦ってきたが、相掛かりを多用するようになった。今年の4タイトル戦では先手番9局中5局で相掛かりを採用し4勝1敗と結果を残した。

 この一年で最も磨きがかかったのは序盤ではなく終盤だ。NHKの藤井特集で将棋AI開発者の山口祐さんが豊島を含めた2人の将棋を分析したが、番組では紹介されなかったPR(パフォーマンスレート)というデータがある。1手ごとにAIの手と比較して何%勝率を下げるかを調べた指標で、少なければ少ないほどAIに近づく。終盤のPRは豊島が1・2と超トップレベルだったのだが、藤井は20年度の1・6に対し今年はなんと0・59。山口さんは竜王戦直前に「番勝負で(藤井に)勝つのは人間には相当大変ではないかと思います」とツイッターでつぶやいたが、その予言通りの結果となった。

 AIは序盤は予習できるが終盤は復習しかできない。将棋は終盤になればなるほど複雑になるため、終盤を制するものが勝つゲームだ。藤井が勝ち続けているのは決してAIのおかげではない。

 藤井と豊島は居飛車党で、後手では相手の得意を受けて立ち、AIでの研究にたけているところなど、共通点が多く方向性も似ている。その豊島と長い持ち時間で対局することで、豊島の思考や指し手を学んで吸収した。藤井を最も強くしたのは豊島なのだ。

 私は東日本大震災のあった11年3月11日に順位戦で直接対戦して以来、豊島ファンでもある。調子は決して悪くない。残念ながら無冠となったが、きっと必ずタイトル戦で藤井の前に座る。2人の戦いはまだ序章だ。

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2021年11月15日のニュース