中村勘九郎 「チャレンジする魂が必要」 主演ドラマ「中村仲蔵」で実感

[ 2021年11月15日 08:30 ]

ドラマ「忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵 出世階段」で中村仲蔵を演じる中村勘九郎(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】歌舞伎俳優の中村勘九郎(40)がNHK・BSプレミアムのドラマ「忠臣蔵狂詩曲No.5 中村仲蔵 出世階段」(前編・12月4日午後9時~、後編・12月11日午後9時~)に主演する。

 江戸時代の伝説の歌舞伎役者・初代中村仲蔵が裸一貫からはい上がる下克上物語。勘九郎が映像作品に出演するのは、2019年に主演したNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」以来となる。

 勘九郎は「映像と舞台では集中力の違いがあります。1時間半から2時間の舞台の場合、持続させる集中力が必要ですが、映像の場合、ワンカットワンカット、ゼロコンマ何秒かの世界で、瞬間瞬間の集中力が必要です。『いだてん』で一年半、お芝居をさせていただいたので、集中力をどう出すかという点は活用できたと思います」と話す。

 仲蔵(勘九郎)の妻・お岸役を演じるのは、女優の上白石萌音(23)。一昨年の大河の主役と、現在放送中のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」のヒロインが共演する形となった。

 勘九郎は上白石に対して「尊敬しかありません。このドラマは、萌音ちゃんが『カムカムエヴリバディ』の撮影を終えたばかりの頃に撮影しました。萌音ちゃんが三味線の弾き語りをする場面がありますが、私も三味線を弾いたことがあるので、難しさが分かります。弾きながら歌うと手がめちゃくちゃになってしまうので、弾き語りなんてできません。萌音ちゃんは朝ドラの撮影でとても忙しかったのに、それを完璧にやったので、凄いと思いました。僕は映像の仕事をする機会が多くありませんが、奥さん役の方に恵まれています。『いだてん』の綾瀬はるかさんしかり、萌音ちゃんしかりで、本当に助けられています。脚本と演出の源孝志監督が描く夫婦像はとてもかわいらしく、奥さんに助けられる仲蔵の描写がしっくり来ました。特に印象に残っているのは、2人でご飯を食べていて、仲蔵がはしご乗りのように足を広げるシーンですね。うら若き萌音ちゃんの前なので、申し訳ないな、と思いながら、楽しく足を広げさせていただきました」と笑う。

 初代市川染五郎役を演じるのは、弟の中村七之助(38)。染五郎は仲蔵の才能を信じ、何かと気に掛ける役どころだけに、2人の共演場面は見どころの一つになる。

 勘九郎は「映像では、大人になって初めての共演でした。七之助は『いだてん』に出ていましたが、落語パートだったので、会わなかったんです。このドラマのように、膝をつき合わせて話す役、しかもバディーみたいな役は初めてに近かったので、楽しかったという印象があります。七之助は凄くクールに見えますが、根はとても熱い男です。全く緊張しないタイプに見えますが、そば屋で2人で話すシーンでは、お酌する手がぶるぶると震えていました。それほどの緊張感、覚悟を持って、この作品に臨んでくれたのだと思うと、わが弟ながら誇らしいです」と語る。

 物語のクライマックスは人気演目「仮名手本忠臣蔵」の場面。仲蔵は見せ場のない地味な役を割り当てられるが、一発逆転を試みる。

 「このドラマへの出演が決まる前、偶然、立川志の輔さんの落語『中村仲蔵』を見に行ったんです。仲蔵はアンタッチャブルな『仮名手本忠臣蔵』の演出を変える…。どんなことにもチャレンジする魂が必要だということは、その通りだと思いました。その後、僕が歌舞伎座で『傾城反魂香』の又平をやらせていただいた時、修理之助(中村鶴松)が虎を消す場面の演出を変えさせていただきました。実際は虎がはい出て来てまた引っ込む演出なのですが、イリュージョニストのHARAさんという方を紹介していただいて、虎を消したんです。周囲でいろいろな意見がありましたが、やってみなければ分かりません。その後、この作品で仲蔵を演じて、そういう気持ちを持っていなければならないと、あらためて思いました」

 このドラマが示すのは、挑み続けることの大切さ。2021年の現実社会に通底するテーマがあり、歌舞伎ファンも、歌舞伎に詳しくない人も、ともに楽しめる。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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