藤井七段、初タイトル16日以降にお預け 苦しんだ“時限爆弾”

[ 2020年7月10日 05:30 ]

<ヒューリック杯棋聖戦 第3局>渡辺明棋聖に敗れた藤井聡太七段(右)(提供:日本将棋連盟)
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 戴冠に王手をかけていた挑戦者・藤井聡太七段(17)は渡辺明棋聖(36)に142手で敗れ、5番勝負初黒星を喫した。シリーズ成績は藤井の2勝1敗となったが、初タイトルまでのマジックは1のまま。屋敷伸之・現九段が持つ18歳6カ月のタイトル獲得最年少記録を塗り替える快挙は第4局(16日、大阪市・関西将棋会館)以降に持ち越しとなった。

  巨大な山は、一足飛びに越えられない。さしもの天才棋士も、棋界を代表する最強3冠の抵抗に音を上げた。「こちらの王形が見慣れない形になり、まとめきれなかった。途中でミスが出たので、実力かと思います」。投了の20手ほど前に、マスクを再装着。駒台上の駒を何度も整えて潔く敗戦を認めた。

 先手の藤井は得意とする戦型の角換わり腰掛け銀を選んだ。初手から1時間で50手に達する超ハイペース。「途中までは考えたことのある形でした」という。ぱたぱたと手が進むさまは早指し将棋のようだ。昼食休憩に入った正午時点で76手。途中で前例から離れてもこのスピードは、藤井に限らず渡辺も研究範囲内と物語る。

 昼食休憩明けから、盤面は早くも激戦化。そして渡辺が左隅に打ち込んだ飛車に、思わずたじろいだ。厳しい王手。「少し読みにない手。形勢はいい勝負と思っていたのですが…」。応手を指すまでに投じた時間は1時間23分。すっかりおなじみとなった大長考の裏には、深い葛藤があった。勝負のアヤはこの時点から渡辺へと傾き、最後までギャップの修復は成らなかった。

 ブルドーザーのように荒れ地をかき分けて力強く前進してきた過去2局。ダブルタイトル挑戦となった1、2日の王位戦開幕局でも策士の木村一基王位(47)の巧みな誘いに乗らず勝利をたぐり寄せたが、さすがに局後の疲労感は濃かった。初めての2日制に対局後「体力的な課題が残った」と、珍しくコンディション面の不安を口にしていたほどだ。

 それでも17歳の若さは武器でもある。この日も終盤は負けを悟りながら渡辺王を追い回し、しっかり詰めろをかけている。つまり渡辺が1手間違えた瞬間に大逆転が成立する恐るべき投了図。これが強者の負け方だ。

 最年少戴冠記録を塗り替えるチャンスは依然として残る。ただ王位戦第2局を挟み、16日の第4局まで8日間でタイトル戦3局と厳しい日程が続く。「またすぐに(対局が)ある。いい状態で臨めるようにしたい」。勝っても負けても決めゼリフは変わらない。感想戦で渡辺と丁々発止のやりとりには、いつになく力がこもっていた。

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