【内田雅也の追球】才木に求む「一穴」をふさぐ、もうひと踏ん張り この夜を良き思い出に

[ 2023年7月28日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6-9巨人 ( 2023年7月27日    甲子園 )

<神・巨> 5回2死、木浪は岡本和の飛球を落球する (撮影・須田 麻祐子) 
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 野球にミスは付き物で、投手と野手には相互に助け合う関係にある。野手のミスの後を投手が踏ん張れば、野手はその後の守備や打撃で奮起する。それがチームだ。

 江夏豊は<エラーをめぐる思い出がないような間柄では寂しい>と著書『エースの資格』(PHP新書)に書いている。

 そんなことは百も承知の阪神先発・才木浩人だが、この夜はミスの後を踏ん張れなかった。

 5回表。2―2同点から梶谷隆幸にソロを浴びたが2死を奪った。4番・岡本和真は遊撃後方へのフライに打ち取った。

 浜風が吹いていたが、誰もが3死でチェンジと思った瞬間、木浪聖也が捕り損ねた。

 直後、一塁手・大山悠輔がマウンドの才木に歩み寄り、声をかけていた。激励だろう。失策の後こそ踏ん張れということかもしれない。

 だが、才木はこの2死一塁から「あと1死」を奪えなかった。四球に中前適時打、右越え2点二塁打を浴びて降板となった。すでに105球を投げていた。疲労もあったかもしれない。

 代わった馬場皐輔も四球に投手・戸郷翔征にも適時打を浴びた。この回大量6失点。2死後の失策だったため5点はチーム自責点ではなかった。

 「アリの一穴」とは、どんなに堅固に築いた堤でもアリが掘って開けた小さな穴が原因となって崩落することがある、という意味である。あの落球が「一穴」となった。

 プロ野球で2死無走者からの最多得点は11点だ。1972(昭和47)年6月21日の神宮。2回表に大洋(現DeNA)があげた。この時も2死後の右飛をヤクルト右翼手が落球(失策)したのが始まりだった。

 使い古された「野球は2死から」は、攻める側にはあきらめない姿勢への激励、守る側には油断を戒める警句になる。

 阪神は今季、失策絡みの失点を示す非自責点が少なかった。チーム失策数はリーグ2番目に多い51個ながら、非自責点は2番目に少ない21点だった=成績は26日現在=。

 投手陣が失策が失点に結びつかないよう、踏ん張っていた証明である。

 敗戦後、監督・岡田彰布は落球について「そんなの」と言った。「逆に助けてもらうことだってあるわけやから」。つまり「一穴」をふさぐ、ひと踏ん張りを望んだ。

 江夏流でいけば、才木と木浪は、この夜を良き思い出にしたい。=敬称略=(編集委員)

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