【内田雅也の追球】「ケ」のない快テンポの阪神・伊藤将 梅野を信頼しているからこそ

[ 2022年7月15日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3-0巨人 ( 2022年7月14日    甲子園 )

<神・巨>7回、一走・重信(左奥)に対してけん制球を投げる伊藤将(撮影・北條 貴史)
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 投手の記録に無四球試合はあるが“無けん制試合”はない。公式記録にけん制球の成績項目はない。刺したり、悪送球しない限り、表に出ない、隠れたプレーである。

 阪神担当となった1988(昭和63)年からスコアにけん制球を記している。2月の高知・安芸キャンプ。紅白戦でスコアラーが記録するのを見たからだ。当時は紙に書いていた。けん制球は「ケ」。いつ放ったか時期を示すため、1、2、3……と数字を付けていた。「ケ1」なら打者へ1球目を投げる前にけん制したという意味だ。

 この夜、阪神先発の伊藤将司は6回まで「ケ」がなかった。4安打されて走者一塁の状況はあったが、けん制球は投げていなかった。四球もなかった。無四球、無けん制完封ペースだった。

 7回表、先頭のグレゴリー・ポランコに四球を与え、無四球は消えた。無死一塁で代走に重信慎之介。打者・増田陸の1ボール1ストライクから一塁に緩くけん制球を投げた。この夜初めてだった。「ケ3」と記した。

 その後はもう走者を許さなかった。1四球、1けん制球の見事な完封だった。準無四球、準無けん制試合である。

 無けん制完封を高校野球で見たことがある。79年夏の甲子園大会、浪商・牛島和彦(現本紙評論家)は倉敷商を完封、けん制球を放らなかった。

 牛島がロッテ現役時代のある日、大阪・心斎橋のバーで出くわした際、この試合について聞いた。「覚えてるよ。暑いし早く終わらせたかった」と笑わせた後、「盗塁はドカが刺してくれるからな」と言った。ドカベンと呼ばれた強肩捕手、香川伸行(南海)への信頼があった。ポンポン投げて119球、試合時間1時間33分だった。

 伊藤将も捕手・梅野隆太郎にそんな信頼を抱いているのだろう。スイスイと113球、2時間38分で終えてしまった。

 伊藤将の捕手は今季、開幕当初は坂本誠志郎、次いで長坂拳弥。梅野とは6月11日が初めてで、交流戦が明けてから4戦全勝。捕手梅野で38回1/3で自責点4、捕手防御率(CERA)0・94だ。

 梅野は伊藤将への返球が早く、快調な投球テンポを生む。相手打者に考える時間を与えない。加えてけん制球も放らないのだ。風がやみ、湿った空気のなか、心地よい投球だった。 =敬称略=(編集委員)

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2022年7月15日のニュース