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逃がした魚は大きい?三平と同じ大会会場「戸田水郷」で秘密兵器投入 まさかの“謎の魚”も

[ 2023年11月18日 07:20 ]

戸田水郷で釣れたコイフナ?右下はブルーギル
Photo By スポニチ

 釣り漫画の名作「釣りキチ三平」連載50年を機に、ゆかりの釣り場や対象魚に挑戦するルポ第3弾。今回は「呪い浮子(ウキ)」の章の舞台となった岐阜県海津市の戸田水郷でヘラブナを狙った。(岩田 浩史)


 木曽三川の一つ揖斐川の支流、津屋川沿いに、戸田水郷と呼ばれる一帯がある。点在する大小の池は、川の氾濫でえぐられて水が残ったままの「落掘(おっぽり)池」。中でも長池、坊主池、丸池は三平少年が出場した「全国野ベラチャンピオン大会」の会場だ。

 作中では100人の地区チャンピオンが出場したが、この日は各池2、3人の姿が見える程度。迷わず三平と同じ長池で、午前11時半に釣りを始めた。

 野池のヘラブナ釣りは、全く釣れないこともある。地味な“大人の釣り”と見られがちで、今思えば少年読者には、取っつきにくい題材だ。だが「呪い浮子」は、ヤマアラシの針を使い、釣り人の間を渡り歩く奇妙なウキをキーアイテムとするなど読ませる工夫がぎっしり。「野ベラ釣りの全国大会」もその一つだ。呪い浮子を追う「つり人社」の記者として登場し、現在は同社会長の鈴木康友氏(74)も「釣れるか分からない野ベラで全国規模の大会は、当時も今も現実的にはやりにくいが漫画的には面白い」と指摘する。

 長池を攻める記者のウキは2時間以上も動かなかった。そのため「バラケサナギ」の投入を決断する。三平が強敵にヘラの群れを持って行かれ、逆転を狙った秘密兵器だ。集魚効果の高いサナギ粉を練り餌に混ぜたダンゴを打ち込む。そして“食わせ餌”に替えた1発目でヤツは来た。

 ウキがチョンと一目盛り沈んだと思うと、小刻みに揺れて、ググッと沈み込んだ。今だ!と合わせると、竿が大きく弧を描いた。

 ズッシリした重みは小さく見積もって30センチ級は間違いない。竿を立てても全然寄せられない。だが針はがっちり掛かっている。逆らわず、かつ自由にさせないよう様子を見る。主導権はこちらにあると感じていた。

 「魚は空気を吸わせれば観念する」。三平の言葉通り、水面上に顔を引き出そうとするが、水の奥で身をよじる鈍い光を見るのがやっと。その魚影がデカい。40センチ…いや50センチ?寄せては離されを15分は繰り返しただろうか。そして何度目かの寄せに、これまでにない強い引きを感じた瞬間、ハリスが切れた。

 逃がした魚は大きい…しびれた手で握る竿が震える。群れを散らしたか?と不安になる。だが、次の当たりはすぐに来た。引きはヤツの半分もなかったが、慎重に取り込んだ。やった!三平も釣った戸田水郷のヘラだ。その後も20センチ強が続けて釣れた。自作の“呪い浮子”も使ったが、成果は次回報告したい。

 高揚感の中、4匹目から釣り針を外しながら違和感を感じた。あれ?ヒゲ?ヒゲがあるのはコイのはず。体高の高さはヘラっぽいのだが…。これまで釣った“ヘラ”を見返すと全てヒゲがあった。いわゆる“外来種のコイ”か?久々のヘラ釣りとはいえ、すぐに気付けないとは情けない…。雨脚も強まったので間もなく納竿した。

 だが帰京後、この“コイ”に思わぬ可能性が浮上した。先輩釣り師によると、まれにだが、コイとフナが自然交雑したとみられる魚が釣れるといい、記者の“コイ”もそれに似ているという。「コイフナ」「ヘラコイ」などと呼ばれるそうだ。つり人社の鈴木会長も画像を見て「口はコイだが体形はヘラっぽい。フナとコイは交雑するようだ」と語った。ちなみに、コイとフナの要素の出方は個体によって違うようだ。

 釣りキチ三平の舞台で釣れた“謎の魚”。今となっては叶わぬ願いだが、ぜひ三平に釣ってみてもらいたいと思った。

 《作品に実名で登場 つり人社の鈴木会長「僕へのご褒美かも」》「三平に実名で登場したのは僕だけ」という鈴木会長。駆け出しの頃、「三平」の連載を始めた矢口氏を原稿の依頼で訪ねたことから縁が始まった。「釣り漫画を描いておられるなら、ウチでも何か書いてほしいという単純な発想でした。でも先生は多忙で、人気作家で…無謀でした」と振り返る。以来、矢口氏にあらゆる釣りの資料や情報を提供するなど陰で支えてきた。登場した「呪い浮子」の章は「昭和版三平」の終盤。「連載も終わりが近づき、僕へのご褒美という意味合いもあったのかも」と振り返る。謎のウキと三平を追い、東京と秋田、岐阜を飛び回る若き鈴木会長が、物語に幅と奥行きを与える一作だ。

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