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闘争心で結ばれた絆 仕掛け、餌、研究と努力重ね「他の船に負ける気しない」勝負懸けた数千万の10トン船

[ 2019年6月21日 06:22 ]

「撮影を」と言ったら「帽子をかぶらないと」と父・清志さん(右)。優さんとの息もぴったり                               
Photo By スポニチ

 【シリーズ親子船】息子の“凶行”に手がつけられない父親…今年になって続いた痛ましい事件の陰には父子関係のゆがみが見える。千葉県勝浦・川津漁港で遊漁船と漁を続ける基吉(もときち)丸の父子、渡辺清志(62)と優=ゆう=(35)の間には親子の断絶はない。海に生きる男同士、堅い絆で結ばれていた。(笠原 然朗)

 清志は「基吉丸」3代目だが、「その前も代々、川津の漁師」。根っからの海の男は18歳のころ「素潜り」の漁師になった。水深10メートル以上の岩礁にいるアワビやサザエを採り、シーズンオフにはメダイのはえ縄漁船で操業した。
 清志「当時、メダイは高級魚で1キロ3000円ぐらいの値がついた。でも船酔いがひどくてね。何度、漁師やめようかと思ったか分からない」
 優は高校を中退、一時、とび職の仕事についたが、「ごく自然に」父の後を継ぐことになった。
 優「中学校のころオヤジの船の“舵子(かじこ)”をやっていたから。船酔いもしなかった」
 素潜り漁は2人1組で船を出す。1人が潜り、1人は船の上で潜り役の命綱を握る。それが「舵子」。川津なまりでは「かじこう」と聞こえる。
 清志「後を継がせる気はないし、息子をあてにしていなかった。つらい仕事だし、水揚げは自然任せだし」
 だが気がついてみれば親子船。遊漁船に漁、優はシーズンには素潜りを続けている。漁で今、2人で狙うのは高級魚、キンメダイだ。
 清志「朝2時ごろ船を出して漁は7時半ころまで。150本バリの仕掛けを下ろす。2人で300本」。
 優「親子の会話?船の上では漁のこと。仕掛けとか、餌とか。普段もそうですね」
 清志「他の船に負ける気はしない。仕掛けを新しくして、餌も切り休む暇はない。こだわりがあるんだよ」
 親子で努力を重ね、チームワークを重視してライバル船に勝つ。闘争心こそ基吉丸親子のスピリッツだ。

 清志「周りと同じ考えでは勝てない。時には逆転の発想も必要だよ。人と違うことをやる。俺は芸術家タイプなんだ。美術系。画家でいえばピカソみたいなもんだ」
 優「オヤジのことは漁師としての腕も、人間的にも尊敬していますよ」。

 最近、10トンクラスの中古船を購入。入港を待つばかりだ。
 清志「俺は船を買うのを35歳まで我慢した。能力がついたと思ったから新しくした。優も35歳になったし。だから持たせてやる」

 優「勝負どころだと思っています。今やるしかないかな」

 6年前に結婚した妻との間に1歳6カ月の娘もいる。

 中古とはいえ数千万円の借金を抱えることになるが…
 清志「2人で返していけばなんとかなる」 令和の海をゆく親子船は順風満帆。 =敬称略=

 ◯…遊漁船を始めたころ清志は「お客さんにあいさつができなかった。漁師は孤独で、自分頼りだし、しっぽを振って愛想を振りまきたくなかった」。今はもちろん違う。優は「お客さんと友人のような人間関係が築ける船宿にしたいですね」。楽しみだ。

 ▼釣況 東日本釣宿連合会所属、勝浦川津港・基吉丸=(電)0470(73)3521。イシナギを狙って出船仲。

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