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スポニチキャンパス

福岡女子大弓道部

[ 2018年8月30日 05:30 ]

りりしい立ち姿で的を狙う福岡女子大弓道部員たち
Photo By スポニチ

 【ただ的に当てるだけじゃない 豊かな人生を射抜け】

 九州、山口の大学で、生き生きと活動する若者たちを紹介するスポニチキャンパス。今回は福岡市東区にある福岡女子大学の弓道部だ。半数は初心者ながら、経験者の助言を受けつつ「武道」に打ち込む。猛暑に見舞われた夏休みも、すがすがしさを感じさせる袴(はかま)姿で心身の鍛錬に取り組んでいた。

 昨年11月に完成したばかりの弓道場。部員18人は集中力を高め、28メートル先にある的に向かって矢を放つ。吉本夏奈子部長(3年)は「ちゃんと弓を引けていないのに、当たったら目指しているところと違う。正しい射形(フォーム)で当たるのがうれしい。それを目指しています」と話す。正しい射形で打てば矢は中(あた)る。それが「正射必中(せいしゃひっちゅう)」だ。

 平安時代末期の源平合戦。1185年の屋島の戦いで源義経指揮下の那須与一が、平氏方の軍船に掲げられた扇を射抜き、喝采を浴びたという。かつて武家のことを「弓矢の家」と表現したように弓矢は武具の象徴だった。鉄砲など火器の登場により、その役割は変わり、日本では心身鍛錬の「武道」として発展していく。

 単に当てればいいわけではない。全日本弓道連盟はHPで、この競技を「人生をもっと豊かに」するものとして技術向上だけでなく、自己の人格を磨く“気づき”を得られる場だと説明。的中数だけでなく、射形などを含めた採点で争う競技会も多い。

 この精神を踏まえながら、初心者が多い福岡女子大は「みんなで楽しく」をモットーにしている。

 最初から思うように矢が飛ぶわけではない。基礎練習が大切だ。矢を放つ一連の動作を「射法八節」といい、(1)足踏み(2)胴造り(3)弓構え(4)打起(うちおこ)し(5)引分け(6)会(かい)(7)離れ(8)残心、と全て名が付いている。この基本動作を、ゴムチューブを弦にした「ゴム弓」で繰り返す。ボクサーがサンドバッグを叩くように、弓を引く動きで「弓道用の筋肉をつけるんです」と初心者の村川帆香(1年)。さらに矢を持たずに弓だけを引く「素引き」、ワラを俵状に束ねた「巻藁」を至近距離から打つ練習へ進んでいく。

 弓の素材は竹、グラスファイバー、カーボンファイバーなどがあり、重さもさまざま。初心者は軽めの7キロを使うことが多い。高校時代にパソコン部だった伊藤由紀(1年)は「めっちゃ重たかった。一番軽い弓でも引けなかった」と初体験を振り返る。家にゴム弓を持ち帰って練習を積んで克服。「今は7キロでも余裕だと思います」と胸を張る。結果が出れば、どんどんやる気が湧く。「練習して的に近づき、当たるようになるのが目に見えて分かる。それが凄くうれしい」。スポーツ経験がなく、体力に自信がない人、そして年齢を重ねても楽しめる競技だ。吉本部長は「卒業してもみんなに弓道を続けてほしい。私も続けたい」と話す。

 吉本は沖縄県出身。知念高で弓道部に所属した。過去2年の夏休みは部活動を休止していたが、今夏は週3日の練習を実施。お互いにアドバイスしながら鍛錬を続けている。

 的中すれば、大学ごとに異なる喜びの声が上がる。福岡女子大では「よし!」――。この言葉をもっと増やすため、美しさにこだわる。

 【副部長・金色 強豪福岡高で活躍の経験者】

 副部長の金色(かないろ)紗也加は福岡高弓道部で活躍した経験者だ。全国大会出場者を輩出する強豪で、各学年30人以上が所属する大所帯。文武両道に励んだ。「いろいろと邪念が入るといけない。自分の世界に入ることを心がけている」。競技中は極限まで集中力を高める。

 今月13〜15日に全日本学生弓道大会の団体戦に部長の吉本らと出場した。全国から200チームが参加。24位までに入れず、予選落ちしたが「いい経験になりました」と経験を糧にするつもりだ。

 練習では同じく経験者の吉本と一緒に1年生に助言する。「(1年生)7人のうち、5人が初心者ですけど、めちゃくちゃ上手になっています」と手応えを感じている。

 【楠生 中学以来の競技復帰 両親が福岡出身の縁に導かれ入学】

 栃木県出身の楠生杏樹(くすばえ、1年)は中学時代に弓道部だった。「めっちゃ嫌いだった。練習していても全然伸びないし」と当時を振り返る。高校には弓道部がなく、軽音楽部でベースを担当。ただ、嫌いだったはずの弓道を忘れられず「ゴム弓を家で引いたりしていた」という。

 両親が福岡県出身という縁もあり、福岡にある大学へ進学。弓道部をのぞくと「久々の2本目で的に当たりました」。中学3年間で培った感覚がすぐによみがえった。今年7月は「博多祇園山笠弓道大会」に出場。「名前を呼ばれて入場するのが懐かしかった」と競技会の雰囲気を思い切り楽しんだ。

 より美しい射形を目指して精進している。機が熟す前に矢を放つ「早気」になることがあり、癖にならないよう心がける。「目標はきれいな形で引いて、当たること」と“大好き”になった弓道と向き合う。

 【伊藤 大会で皆中だ】

 競技会では1人につき矢を4本打てる。4本全て的中させることを「皆中(かいちゅう)」といい、チームを問わず、会場内から拍手が起こる。伊藤は初めて的に当たった日に2本連続的中させたのが最高。

 「ビギナーズラックです。その後は当たらなかった。今の目標は大会で皆中すること」と意気込む。楠生は中学時代に皆中の経験がある。大学生になれば皆中する選手が多く、負けじと精進を誓う。

 【村川 日進月歩誓う】

 1年生の村川は「自分は部で最下位ぐらいで…」と苦笑い。矢が飛んでも的まで届かず、手前の芝生に落ちたり四苦八苦。的に初めて当たるのも1年生で最後だった。初的中した際は「本当は駄目なんでしょうけど…」と恐縮しながら先輩に許可を求め、記念写真を撮った。技術はまだまだでも、競技への情熱を持っている。「今の目標は安定。一つ一つ、丁寧に取り組みたい」と意気込む。

 ▽福岡女子大 福岡市東区香住ケ丘にある公立大学。1923年(大12)に福岡県立女子専門学校として開校。1950年(昭25)から現校名に。国際文理学部に国際教養学科、環境科学科、食・健康学科がある。

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