「鎌倉殿の13人」オリキャラ善児誕生秘話&衝撃回「修善寺」舞台裏 義時「私に善児が責められようか」

[ 2022年9月4日 08:00 ]

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第33話。源頼家を討つため、修善寺に現れた善児(梶原善)(C)NHK
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 俳優の小栗旬(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は8月28日、第33話が放送され、俳優の梶原善(56)が“怪演”し、初回(1月9日)から視聴者を恐怖に陥れ続けた仕事人・善児、俳優の金子大地(25)が苛烈なまでの運命を体現した鎌倉幕府2代将軍・源頼家の壮絶な最期が描かれた。2人にトドメを刺したのは、女優の山本千尋(26)演じる“2代目善児”トウだった。“衝撃回”の舞台裏に迫る。

 <※以下、ネタバレ有>

 稀代の喜劇作家にして群像劇の名手・三谷幸喜氏が脚本を手掛ける大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。鎌倉を舞台に、御家人たちが激しいパワーゲームを繰り広げる。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は8作目にして大河初主演に挑む。

 第33話は「修善寺」。政子(小池栄子)の次男・源実朝(嶺岸煌桜)を3代鎌倉殿とする新体制が始まり、北条時政(坂東彌十郎)が執権別当に就任。裏から時政を支える妻・りく(宮沢りえ)は実朝の正室を京から迎えることを進言し、娘婿・平賀朝雅(山中崇)を通じて後鳥羽上皇(尾上松也)に願い出る。しかし、御家人たちは派手に権力を振るう北条を敬遠。三浦義村(山本耕史)の忠告に、北条義時(小栗)も苦笑を浮かべる。一方、伊豆・修善寺へ追放された失意の源頼家(金子)は…という展開。

 頼家は「軍勢を率い、鎌倉を火の海にし、北条の者どもの首をはねる。このままここで朽ち果てるつもりはない」と執念。しかし、後鳥羽上皇に北条追討の院宣を願い出たことが書かれた扇を八田知家(市原隼人)が発見。謀反の証拠に、流石の義時も頼家討ちを決めざるを得なかった。

 修善寺。横笛を吹く猿楽衆の中に、1人だけ指の動かない男がいる。義時の命を受けた仕事人・善児(梶原)だった。愛弟子・トウ(山本)の姿もあった。

 頼家と善児の一騎打ち。ついに善児が頼家を仕留めたと思われたその時、紙に書かれた「一幡」の文字が目に飛び込む。「わしを好いてくれている」(第32話「災いの種」、8月21日)――。あの時、頼家の長男・一幡(相澤壮太)を殺めるのをためらった善児に隙が生まれた瞬間、頼家の刀が善児を貫く。「わしはまだ死なん!」。頼家が善児にトドメを刺そうとした時、今度はトウの刀が頼家を背後から突き刺し、2代鎌倉殿は息絶えた。「源頼家。偉大なる頼朝の子。享年23」(語り・長澤まさみ)。

 瀕死の善児をトウが襲う。「ずっとこの時を待っていた」「父の敵!」「母の…敵…」――。善児は、修善寺に幽閉された源範頼(迫田孝也)と、範頼と野菜を作っていた少女トウ(高橋愛莉)の両親(五藤太とその妻)も手にかけた敵(第24話「変わらぬ人」、6月19日)。あれから約7年、同じ修善寺の地。孤児(みなしご)の自分を世話してくれた師匠に“引導”を渡した。

 史書「吾妻鏡」には、元久元年(1204年)7月19日の記事に「酉の刻に伊豆国の飛脚が(鎌倉に)到着した。『昨日十八日に左金吾禅閤(源頼家)(年は二十三歳)が当国の修禅寺で亡くなられました』と申したという」(吉川弘文館「現代語訳 吾妻鏡」より)と短く記されるのみの頼家の最期。今作はオリジナルキャラクターの善児とトウを絡めた凄まじい幕切れとなった。

 アサシン(暗殺者)・善児の存在が文字通り、今作のキャッチコピー「予測不能エンターテインメント」を体現。“歴史の余白”を埋めるオリジナルキャラクターも、大河ドラマの醍醐味の1つ。単なる“史実の再現”にならないための重要なポジションを託され、全うした。

 最初に台本を読んだ時の印象について、金子は「まさか善児との一騎打ちになるとは思ってもみませんでした。そして、あの大騒ぎの中、逃げようと思えば逃げられたのに、善児に立ち向かっていった頼家の強さを三谷さんが描いてくださって、本当にうれしかったですね」と驚き、梶原は「いつかこんな日が来るんだろうなと。トウを育てる設定を頂いた時から、もし最期に誰かにトドメを刺されるなら、僕自身の希望としても、トウがいいなと思っていたので。三谷さんが僕の願った通りに描いてくださって、そして、ここまで劇的な最期を迎えさせていただいて、とてもうれしかったです」と“本望”を告白。

 重責を任された山本は「正直に言うと、この時が“来てしまった”と思ってしまう自分に対して“来た、待っていた”と言い聞かせる日々を過ごしていたように思います。トウの大きな見せ場であり、三谷さんからの愛ある課題でもあったので、ずっとこのシーンのことを考えていましたし、悩みました」と明かした。

 当初のリハーサルだと、トウの感情は大きく出さない方向だった。

 「ただ、やはり私の中では、ずっと殺したいと思っていた親の仇でありながらも、育ての親である善児に情というものもありました。だからこそ正面で向かい合いたい、顔を見たいと思ってしまいました。そうすることで、善児とトウという長くも悲しい時間の終わりに決着をつけられると。だから、梶原さんに正直に相談したんです。梶原さんに甘えさせていただき、本番ギリギリまで2人でのリハーサルをしました。いざ向き合うと、感情がグチャグチャになりました。でも、その表現できない想いについては、それはそれで良かったのかなと思うようにしています。大河の現場は本当に先の分からないことが多いので『これで良いのかな。あの時、こうすれば良かった』と考えてしまうことの連続です。そのことを梶原さんにポロっと言ってしまったことがあり、そうしたら梶原さんが『オレも“あの時、こうすれば良かった”と思うことだらけだよ!』とおっしゃっていて『初回からいる善児を演じている梶原さんというこんな凄い方でも、そう思うのか』と救われた気持ちになりました」

 7月20日に放送された「歴史探偵」(水曜後10・00)は「鎌倉殿の13人」とのコラボ回。「比企能員の変」などに迫った。「鎌倉殿の13人」制作統括の清水拓哉チーフ・プロデューサー(CP)は三谷脚本の魅力を語る中、創作の一例として“善児誕生秘話”を打ち明けた。

 第11話「許されざる嘘」(3月20日)、善児は頼朝の命により、主人・伊東祐親(浅野和之)を暗殺。番組公式ツイッターによると、鎌倉幕府が編纂した公式の史書「吾妻鏡」には、養和2年(1182年)2月14日の記事に「政子が懐妊し、源頼朝の嫡男誕生の期待が膨らむ中、三浦義澄に預けられていた伊東祐親が自害しました。御所にいた義澄は走って館に戻りましたが、その時には既に死体は片付けられていたそうです」と記されている。

 清水CPは三谷氏が最後の1行「既に死体は片付けられていた」に着目したと明かし「どうして、わざわざそんなことが書いてあるんだろう、と。(鎌倉幕府にとっては)後ろめたい何かがあったから、そういう記述になったんじゃないか。そこから想像を膨らませて、頼朝がひそかに祐親を殺させたというストーリーが生まれました。三谷さんは記録に残っていることを非常に大事に、そこを手掛かりに創作されています」。上総広常(佐藤浩市)の「手習いと祈願書」、平宗盛(小泉孝太郎)の「腰越状」代筆、日本三大仇討ちの一つ「曽我兄弟の仇討ち」(曽我事件)は「敵討ちを装った謀反ではなく、謀反を装った敵討ち」など、三谷氏が史実と創作を鮮やかに融合。“神回”“三谷マジック”“神がかる新解釈”の連続に、歴史ファンからも唸る声が相次ぐが、善児もその1つだった。

 第33話、善児の小屋。義時は兄・北条宗時(片岡愛之助)の火打石を見つける。兄を討ったのが善児だと分かっても「私に…善児が責められようか」。善児に頼家討ちを命じた。

 そして、「今日は誰かと飲みたかった」と訪れた和田義盛(横田栄司)の館。15年ぶりに再会した仏師・運慶(相島一之)から「おまえ、悪い顔になったな。だが、まだ救いはある。おまえの顔は悩んでいる顔だ。己の生き方に迷いがある。その迷いが救いなのさ。悪い顔だが、いい顔だ。ああ、いつか、おまえのために仏を掘ってやりたいなぁ。うん。いい仏ができそうだ」――。

 広常の最期が描かれ、今作一の“神回”の呼び声が高い第15話「足固めの儀式」(4月17日)を上回るような衝撃度。それでもなお、義時は修羅の道を突き進む。

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