待ってました!六平のお市!蜂谷キティにも首ったけの150分

[ 2022年6月28日 15:30 ]

花園神社内に特設された紫テントで上演された下谷万年町物語」
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】新宿梁山泊の第72回公演「下谷万年町物語」を観劇した。東京・新宿の花園神社内に特設された紫テント。千秋楽2日前の6月23日、暑くて熱くて、そして幸せな一夜を過ごした。

 演出は金守珍氏(67)で、「創立35周年テント興行」と銘打った芝居。俳優陣の迫真演技と、それを全身で受け止める超満員の客でテント内は熱気ムンムン。桟敷自由席の最前列から3列目に陣取ったが、セットの瓢箪池に役者が飛び込む度にあがる水しぶきを適度に浴びながら、2度の休憩を挟んでおよそ2時間半の芝居を堪能した。

 5月の1カ月間、スポニチ芸能面のコラム「我が道」に登場した六平直政(68)が30年ぶりに梁山泊のテント公演に出演するのも期待感をあおった。大鶴義丹(54)の3年ぶり出演も話題に拍車をかけて、当日も大変な盛り上がりをみせた。

 「下谷万年町物語」は唐十郎氏の自伝的小説で、1981年11月に中央公論社から単行本が出版されている。2年後の83年4月に中公文庫の中に収まり、それを神田神保町の古書店で入手したのはずいぶん前だが、改めて読み直してみても面白い。

 昭和23年の11月、上野と鶯谷の真ん中あたりにある下谷万年町が物語の舞台。辺りを視察していた警視総監の帽子を叩き落として盗んだとされる男娼(だんしょう)たちと権力との闘いを縦軸に、そこで暮らす人々の悲喜こもごもが描かれる。

 小説が発売された81年に唐氏は戯曲化し、渋谷の西武劇場で上演された。蜷川幸雄氏が演出に当たり、李麗仙や渡辺謙が出演。2012年には渋谷Bunkamuraのシアターコクーンで蜷川演出で再演もされている。この10年前の蜷川再演出版で、帽子盗難のカギを握るオカマの頭領「お市」を演じたのが六平。演出は蜷川氏から盟友の金守珍氏に代わったが、引き続いての「お市」登板で、圧倒的な存在感を示した。30年ぶりのテント公演をお客さんと一緒に楽しんでいる風情で、思わずニンマリしてしまった。

 うれしい発見もあった。「文ちゃん」を演じた中嶋海央(みお、27)との出会いが1つ。掘り出し物に出くわした気分だ。中嶋は2017年、第30回ジュノンスーパーボーイコンテスト東京代表で、ネクストブレイクオーディションファイナリスト。21年に劇団「柿食う客」に加入し、新宿梁山泊「ベンガルの虎」など活動の場を広げている。

 甘いルックス、そして膨大なセリフ量をカミもせず、速射砲のようにポンポンと繰り出す達者さ。評判が立ったのだろう。実力派が多く所属する芸能事務所の社長が大物女優を伴って訪れ、賛辞を送ったという。

 そして最大の収穫はこの人。男装の麗人「キティ・瓢田」を演じた蜂谷眞未だ。初演では李麗仙、蜷川版では宮沢りえ(49)が演じたヒロイン。パンフレットに「40歳の大挑戦を見届けていただけると幸いです」とあって驚いた。とても40歳には見えない若々しさ。華があって、色気があって、もちろん芝居も歌もお見事。パンフに「8歳の頃から役者になる事に憧れを抱いていた私にとって、唐さんの作品に挑めること、「下谷万年町物語」の住民としてこの紫色のテントに立てる事が今でも信じられず、未だに夢の中にいるようです」とあるが、その喜びがあふれ、それこそ“不惑”のステージに映った。

 映画の担当が長く、舞台中心に活躍する女優さんには詳しくないが、うれしい邂逅となった。六平も「彼女は素晴らしい」と褒めていた。演劇実験室◎万有引力「邪宗門」や「身毒丸」、新宿梁山泊では「娼婦・奈津子」などに出演してきた。一緒に観劇した大手映画会社の宣伝マンも、確かな演技力はもとより、その色っぽさにすっかり悩殺されていた。追っかけたくなった女優さんだ。

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