【内田雅也の追球】敗戦後の岡田監督に浮かんだ笑み きっと女神は見ている

[ 2023年4月8日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1―3ヤクルト ( 2023年4月7日    甲子園 )

<神・ヤ>1回、サンタナは近本の打球を見失ったかのそぶりをみせ、捕球できずに三塁打に(撮影・岸 良祐)
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 阪神が浴びた2本の本塁打はいずれも第1ストライクだった。青柳晃洋は7回表先頭、ホセ・オスナへの初球スライダーが真ん中に入り、中堅左へ同点弾を運ばれた。8回表は1死一塁で浜地真澄が山田哲人に1ボール―0ストライクから直球が真ん中高めに浮いて中堅バックスクリーンに決勝2ランを浴びた。

 ともに失投である。当たり前だが、誰も真ん中に投げようと思ってなどいない。青柳、浜地の悔しさは推して知る。

 開幕から6試合、阪神が浴びた5本塁打のうち4本が第1ストライク(3本が初球)を打たれたものだ。最初のストライクはやはり難しい。

 <実は0―0のカウントは投手が不利なカウントなのである>と元阪神の名物スコアラー、三宅博が著書『虎の007』(角川マガジンズ)で書いている。<観察することができないので、打者の狙いが読みづらい>。そして<初球は思い切った決め打ちをしてくるものと考えておく>。

 慎重が過ぎてボール先行になっては苦しい。慎重かつ大胆が要求されるのが初球、そして第1ストライクなのだ。

 終盤に被弾が相次いでの逆転負けだが打線があまりに打てなかった。3安打で1点。2~8回は二塁すら踏めなかった。

 監督・岡田彰布としては15年ぶりとなる甲子園での公式戦。霧雨で上空が白くかすむ1回表裏、ともに外野手が飛球を見失った。表はシェルドン・ノイジーが何とか捕った。裏は近本光司の打球をドミンゴ・サンタナが見失い、右翼線に落ちる三塁打となった。続く中野拓夢の中犠飛で幸運な先取点をあげていた。

 古来、魔物や災いに出くわすという、日没前の逢う魔が時(おうまがとき)だった。甲子園の魔物が帰ってきた岡田に味方していた気がした。

 1回裏に中断の後、雨は上がった。雨や泥にまみれる姿、ひたむきさに魔物も姿を消していた。

 ただ、甲子園勝利は持ち越しとなった。監督会見を終え、帰りの階段を上る際、岡田は「打てんかったよな」と少し笑った。「急に打てんようになったなあ」と、今度は白い歯を見せて笑った。

 名人にもなったプロ棋士・米長邦雄は『運を育てる』(祥伝社文庫)で勝利の女神に好かれるには<笑いがなければならない>としている。同書の副題は『肝心なのは負けたあと』。敗戦後の笑顔を女神は見ていたことだろう。 =敬称略=(編集委員)

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