オリ中嶋監督も疑問、なぜリクエストで覆らない? 元NPB審判員記者が本当の理由を解説

[ 2023年4月8日 22:56 ]

パ・リーグ   オリックス2―6日本ハム ( 2023年4月8日    京セラD )

<オ・日(2)>4回、リクエストを要求する中嶋監督(撮影・成瀬 徹)
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 オリックスは12残塁の拙攻が響いて連勝ストップ。勝率は5割に戻った。

 2点ビハインドの4回には微妙な判定でチャンスがしぼんだ。1死一塁から西野のゴロを二塁の谷内がはじき、拾って二塁へトス。二塁塁審・山村審判員のアウト判定に、指揮官はすぐさまリクエストを要求したが、判定は変わらなかった。

 指揮官はベンチをたたいて怒りをあらわにした。試合後、その場面を問われた指揮官は少しの沈黙の後に「どうしたらいんですか。文句言えないんでしょ。なんぼでも言いたいですよ。同じ映像しか見てないんだったら。でも言えないんですから、しょうがないですよね。結構重要なポイントじゃないですか?」と話した。

 中嶋監督には「セーフ」に見えていたプレー。なぜ、判定はリクエストを経ても「アウト」のままだったのか。11年から16年までNPB審判員を務めた記者が解説する。

 まず、リクエスト制度における大原則に触れておきたい。検証においては「スタンド」という考えがあり、判定を覆すための明確な映像がなければ現場の審判員のジャッジを優先する運用となっている。つまり、映像を確認して「~だろう」では判定を変えることはできない。「絶対に~だ」という映像がなければ、基本的に現場のジャッジが優先されるということだ。

 今回のケースはどうだったか。記者が当該のシーンの動画を見た率直な感想は「セーフだろう」である。だが、判定を覆すためには遊撃手がボールをつかんだ瞬間と走者が二塁ベースに触れた瞬間の2つが同時の捉えられている映像が必要になる。今回の映像にはそれがなかった。

 センター側からの映像では走者のスライディングによる土煙、遊撃手と重なったことで、明確に「今、走者が二塁に到達した」と確認できる映像がなかった。また、本塁側からの映像では走者が二塁ベースに到達した瞬間は分かるが、遊撃手がグラブで送球をつかんだ瞬間はわからない。総合的に判断すると「セーフだろう」だが、現在の運用においては「アウト」のままのジャッジになることは納得できる。

 つまり、不満をぶつけるべきは、現場の審判員の「ジャッジ」ではなくハード面、設備投資をしていない運営側ということになる。メジャーリーグでは現場の審判員はビデオ検証に参加せず、専用の施設で豊富なアングルの映像により検証が行われている。記者も16年に米国の審判学校に派遣された際、ビデオ検証で使われる映像素材の多さに驚いた。NPBのようにテレビ中継用の映像で判断するのではなく、判定を検証するためのカメラによる豊富な映像があった。当然、明確な映像があれば「~だろう」ではなく、「絶対に~だ」と判定を正しい方向に変えることができる。

 そもそもNPB審判員は映像による判定検証を導入する際、メジャーリーグのように設備投資を行うように提言してきた。その願いは残念ながらかなわず、限られた映像によるリクエスト制度は続いている。

 NPBはせめて、「スタンド」の考えや設備による判定変更の限界をもっと周知してほしい。そうしなければ、中嶋監督やファンは現場の審判員に怒りをぶつけ続けるだろう。(柳内 遼平)

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