ピッチクロック拡大は“時間”の問題? MLB導入批判激減 社会人は3月から適用 NPB25年までに?

[ 2023年4月8日 02:30 ]

2日、マーリンズ戦の2回にピッチクロック違反を取られるメッツ先発の千賀
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 大リーグでは今季から投球間に時間制限を設ける「ピッチクロック」が導入され、試合のスピード化が進んでいる。開幕カードの平均試合時間は昨季より30分短縮された。大リーグのルールで実施される3年後の次回WBCでの導入は確実視され、将来的な日本球界での導入議論は避けられない。大リーグでの現状や、今季から既に実施している社会人野球での運用や課題に迫った。

 社会人野球を統括する日本野球連盟(JABA)は、2月に大リーグのピッチクロックにあたる「スピードアップ特別規定適用」を発表した。投手はボールを受けてから走者なしでは12秒、ありでは20秒に投球間隔を制限。走者なしでは最初の違反からボールを宣告することはこれまで通りだが、走者ありでは従来は3度目の違反からだったのを、2度目でボールとした。けん制球やボール交換などの「投手のプレート離脱」は、大リーグ同様のルールで制限した。

 一つのタイマーが野球を劇的に変えた。大リーグではピッチクロックの話題で持ちきりだ。野球界最大にして長年の課題であった長すぎる試合時間は、大幅に改善された。2日までの開幕カード全50試合終了時の平均時間は、昨季の3時間8分から2時間38分と30分もの短縮に成功。一方でその間、計40件の違反があった。賛否両論起こっているが、日本球界にとっても決して対岸の火事ではない。

 大リーグが主催するWBCは、毎回大リーグのルールを基本に実施されてきた。3年後の26年の第6回WBCではピッチクロックの導入が確実視される。連覇へ向かうには対策は不可欠。試合時間短縮を目的とし、プレースタイルも変えてしまうほどの劇薬を、プロ野球ではどうするのか。将来的に導入へ向けた議論が交わされることは避けられない。

 プロ野球は大リーグが実施する新ルールを、数年遅れで導入してきた。申告敬遠やリプレー検証、コリジョンルールなど。一方でワンポイント継投禁止など、日本野球にそぐわないと判断し見送ったものもある。昨年10月の実行委員会後、日本野球機構の井原敦事務局長は「実際に導入したMLBの状況を確認していきます」と話し、今後の運用を注視していく構えを示した。導入には2軍戦や教育リーグなどでテストも必要で、来季から即1軍でとなると残された時間は少ない。地方開催時など含め、タイマー設置へのハード面の問題もある。とはいえ、WBCを考えれば遅くても25年シーズンには何らかのシステムを構築しておきたい。はるかに時間が短くなった大谷らの大リーグ中継を見たファンからの声にも耳を傾けながら、新たな決断を迫られる日はそう遠くない。

 侍ジャパン社会人日本代表の石井章夫監督は「野球界において試合の長さは課題。日本で未導入だったこともあり“混乱があるのでは”という不安の声もあったが、スピーディーで迫力のある試合を目指す一方、しっかりと検証することが大切」と狙いを語った。大リーグの開幕よりも早い3月のJABA東京スポニチ大会から適用されたが、混乱なく進行。平均試合時間は昨年の2時間50分から、2時間30分と20分の短縮に成功した。また、2度けん制を受けた走者が盗塁死するなど、制限によるゲームバランスの変化もなかった。スポニチ大会では二塁塁審がストップウオッチで時間を計測。5日開幕のJABA静岡大会では投手から見える位置に「クロックボード」が設置され、ハード面の整備も進んでいる。

 一部大会では今年から「7イニング制」も始まる。新たな野球の形を模索しているが、石井監督は「時間が短くなることは当然。その上で試合が魅力的なものになったのかを検証していきたい。WBCでは時間以上に、迫力のある試合で多くのファンを魅了した。社会人野球としても、柔軟な姿勢で野球を進化させていければ」と語った。(柳内 遼平)

 【記者の目】オープン戦中は現場でも適応の難しさを指摘する声が圧倒的に多かった。野球は「間」を楽しむスポーツ。世界を感動させたWBC決勝での大谷VSトラウトも、「ピッチクロックでは全球が違反にあたってしまう」とルールに批判的な識者の声が続いた。試合時間短縮の試みは理解できるが、ファンも必ずしも好意的とは思えず、無理強いしている印象も否めなかった。

 ただ、開幕から1週間が過ぎ、批判的な声は激減している印象もある。時短と同時に、極端な守備シフト禁止などの新ルールと重なりMLBの思惑通り平均打率(.230→.246)は上がり、盗塁数も2倍以上に増えている。より魅力的なゲームになると現場は体感し始めている。有料映像配信での開幕戦の総視聴時間数は、これまでトップだった21年から42%増と大幅に最長を更新した。

 選手から公に不満を述べる声はほとんど届いてこない。メッツ・シャーザーのように制限時間を巧みに生かそうとする投手もいる。ツインズ・前田も「打者もタイムが1回しか取れないので、時間ギリギリまでボールを長く持ってみたりとか、うまく活用できる部分もあると思う」と前向きだ。もちろんそう捉えていない投手もいるだろうが、導入された以上は、もう文句を言っても仕方ない。好きだろうと、そうではなかろうと、多くの選手が受け入れ、適応に努めているように映る。(MLB担当・杉浦 大介通信員)

 ≪「15秒ルール」あるけど…≫公認野球規則では5.07(c)投手の遅延行為で「塁に走者がいないとき、投手はボールを受けた後12秒以内に打者に投球しなければならない。投手がこの規則に違反して試合を長引かせた場合には、球審はボールを宣告する」と規定されている。プロ野球では09年から投手がボールを受けてから15秒以内に投球する「15秒ルール」が採用された。アグリーメントで規定され、二塁塁審がストップウオッチで計測してきたが、実際に罰則を受けるケースは少ない。

 ≪タイマー 13億円超スポンサー料も≫米サイト「フロント・オフィス・スポーツ」は、大リーグ機構や30球団が球場内のピッチクロック・タイマーへの広告を募ると報じた。「ピッチタイマーは1000万ドル(約13億2000万円)以上のスポンサー料を得られるかもしれない」と注目度の高さから広告塔としても価値が高いと評価。各球団が地元企業と契約する可能性も指摘した。


◇ピッチクロック主なルール◇

・投手は捕手から球を受けてから、走者なしでは15秒、ありでは20秒以内に投球動作に入らなければならない

・打者は残り時間が8秒になる前に打席で構えなければならない

・投手は構えていない打者に投球してはならない

・捕手は残り時間が9秒になる前にホームプレートより後ろにいなければならない

・1打席につき、けん制球は2度まで。3度目のけん制で走者をアウトにできない場合、ボークが宣告されて走者が進塁する

・投手は打者と次の打者の間は30秒以内に投球しなければならない

・投手はイニング交代か投手交代の際には2分15秒以内に投球しなければならない

・打者は打席ごとに1度しかタイムアウトを要求できない

・守備側が違反すれば1ボール、攻撃側が違反すれば1ストライクが科される

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