ジョージア魂賞に中田 真摯な姿勢が乾坤一擲のバックホームに結実

[ 2012年7月17日 10:00 ]

ジョージア魂賞を受賞した中田

 勝利に最も貢献したプレーをした選手を表彰する「ジョージア魂賞」の今シーズン第6回(6月下期)受賞者は日本ハムの中田に決まった。スポーツライターの二宮清純氏が書く、チームを救いサヨナラ勝ちを呼び込んだレーザービームの神髄とは。

  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 この男の武器はバットだけではない。北海道日本ハム・中田翔の太い腕がチームを崖っぷちから救い出した。

 6月16日、札幌ドームでの東京ヤクルト戦。2対2で迎えた9回表1死三塁の場面で、ヤクルト森岡良介は詰まりながらも武田久のストレートをレフトに運んだ。

 スタジアムを悲鳴が包む。三塁走者は俊足の比屋根渉。勝ち越しを狙ってのタッチアップ。中田の肩と比屋根の足の競争だ。

 勝ったのは中田だった。矢のような送球がワンバウンドでキャッチャー鶴岡慎也のミットに収まった。比屋根は鶴岡のブロックに阻まれ、本塁手前であえなく憤死した。

 殊勲の中田はグラブを誇らしげにかざして味方の野手とアイコンタクト。ベンチ前ではチームメートから手荒い祝福を受けた。

 直後の9回裏、マイカ・ホフパワーの犠牲フライで今季4度目のサヨナラ勝ち。試合後、監督の栗山英樹は「中田の好返球は毎日、一生懸命取り組んできた成果で、サヨナラホームランを打つより意味のあるアウト」と声を弾ませた。

 高校まではピッチャーだった。肩の強さにもコントロールにも自信はある。狙った獲物は逃さない。このプレーで外野補殺はリーグ単独トップの6個目(現在は9個)。「中田の肩は脅威」との見方が定着すれば、相手が先の塁を狙う上での抑止力となる。これも隠れたチームプレーのひとつだ。

 今季、持ち前のバッティングは開幕から湿ったままだ。2割5厘という打率(7月12日現在)は規定打席に達した選手の中ではビリ、打撃開眼は、まだ道半ばだ。

 バッティングの不振は往々にして守備に表れる、守っていても「心、ここにあらず」と顔に書いてあるような選手もいる。中田が素晴らしいのは、不振を引きずらず、持ち場持ち場で全力を尽くそうとの真摯(しんし)な姿勢だ。それが乾坤一擲(けんこんいってき)のバックホームに結実したのである。「ホームランも気持ちいいけど、こういうプレーでチームが勝つと勢いに乗っていける」と中田。そのコメントからは、23歳にして早くも主力選手としての自覚がうかがえる。あとはバッティングの梅雨明けを待つだけだ。

続きを表示

2012年7月17日のニュース