【内田雅也の追球】敗者復活へのチーム愛 予祝をした2月と同じ、純粋な心をもって戦おう

[ 2022年9月18日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2―3巨人 ( 2022年9月17日    東京D )

<巨・神>スタンドに頭を下げる阪神・矢野監督(右)とナイン(撮影・篠原岳夫)
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 試合終了後、阪神の選手たちは左翼スタンド前まで歩み寄り、ファンに頭を下げた。今季最後の東京ドームだった。

 一礼の後、先ごろ今季限りでの現役引退を表明した糸井嘉男が前に出て喝采を浴びていた。ファンや相手チーム関係者に別れを告げるため、ベンチ外で同行していた。何度も帽子を振った。

 糸井同様、監督・矢野燿大にとっても最後の東京ドーム、最後の伝統の一戦だった。だが、悲しいかな、矢野には選手のような喝采はない。いや、あったのだろうが、かき消されていた。

 勝負の世界。勝てば持ち上げられ、負ければ突き落とされる。それが監督である。特に阪神の監督はそうやって天国と地獄を味わってきた。

 クライマックスシリーズ(CS)進出を争う巨人との最終戦。矢野にとっては最後の伝統の一戦に敗れた。もう、早くから分かっていたことだが、計算上も、優勝の可能性は完全に消滅した。

 試合は1―1同点の6回裏、先発・西勇輝が中田翔、グレゴリー・ポランコと2本のソロを浴びた。被弾後、マウンドに集まった内野陣に西勇は「ごめん!」と叫んでいた。失投を悔やんだ。

 いや、その投球の内容を論評するような時期はとうに過ぎている。今や結果だけが問われている。西勇は打たれて3点を失い、打線は食い下がったが2点しか奪えず、結果は敗れたのだ。

 今年2月23日、キャンプ地の沖縄・宜野座で「予祝」と称して、矢野の胴上げを行おうと音頭をとったのが西勇と糸井だった。ともにオリックスから移籍してきたベテラン選手だが、阪神にとけ込んでいた。キャンプイン前日、今季限りでの退任を表明した矢野の下、優勝への思いを募らせていたわけだ。

 今では恥ずかしい、忘れてしまいたい出来事かもしれない。ただ、一体感や一丸を目指そうとする純粋な心にうそはなかったと信じている。

 アメリカには、こんな箴言(しんげん)がある。「野球では勝てば栄誉が得られ、敗れれば、チーム愛が残る」

 優勝がなくなった阪神は敗者である。だが、CSでの敗者復活の道は残されている。一度は敗れた今、阪神はチーム愛で残り7試合を戦っていくのだろう。=敬称略=(編集委員)

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2022年9月18日のニュース