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【コラム】戸塚啓

日本代表、問われるピッチ内での応用力 主導権を握られた時のサッカー

[ 2014年6月14日 05:30 ]

コートジボワール戦に向けた練習で、長友(奥)と話す本田
Photo By 共同

 コートジボワール戦を控えた日本の不安と言えば、本田のコンディションとディフェンスだろうか。

 ワールドカップという舞台があまりにも大きく取り上げられるからか、選手は開幕戦から全力疾走で戦うものと考えがちだ。ただ、世界のトップレベルを見据えた選手は、徐々に調子をあげていく。

 たとえば、陸上の100メートルの有力選手は、メダルのかかる決勝までは全力でゴールテープを切らない。次ラウンド進出がはっきりした瞬間に、ゴールを待たずに流す。余力を残しながら勝ち上がっていく。

 陸上のように同じ日に2本走る=試合をすることがないとはいえ、ワールドカップにも同じ考えを当てはめていい。今大会の日本は、上位進出を目ざしている。1次リーグの初戦からフルスロットルで疾走したら、途中で息切れするのは避けられない。

 日本の実力を考えれば、チーム全員が序盤からトップフォームで臨まないと、1次リーグを勝ち上がるのは難しい。コートジボワール、ギリシャ、コロンビアとの力関係を考えても、これは厳然たる事実だ。

 しかしながら、ベスト8やベスト4入りを見据えると、序盤から100%の戦いを続けたらオーバーペースだ。チームとして一定水準以上のレベルを保ちつつ、勝ち上がっていくのが理想である。

 チーム全体の仕上がりで言えば、日本は悪くない状態にある。チーム全体が少し疲労を感じるタイミングで、たとえば1次リーグの3試合目で本田がいよいよコンディションをあげてくれば、チーム全体は高いレベルを維持して決勝トーナメントに突入することができるはずだ。

 むしろ懸念されるのはディフェンスだ。アメリカで行われたテストマッチは、コスタリカ戦、ザンビア戦ともに先制点を奪われた。もっと言えば、強豪相手のテストマッチでは先制されるケースが続いてきた。

 10日に行われたザッケローニ監督の記者会見では、主導権を握られた時間の試合運びを問う質問があった。ザックは「相手に主導権を握られている時間帯に限らず、全員でしっかり守ることだ」と話した。それまでジョークを交えながら質問をさばいていたイタリア人指揮官は、感情を読み取りにくい表情を浮かべた。

 それも当然だと思う。

 攻撃的と守備的にかかわらず、相手に主導権を握られる時間はある。ゴール奪取より失点阻止が優先されるその時間帯では、相手の勢いが日本を侵食しようとしている。スカウティングの範囲内に、収まりきらないこともあるだろう。

 そのときザックは、何をするべきなのか。

 いきなり劣勢を強いられ、なおかつ交代枠に余裕があれば、選手交代によって流れを変えることはできるだろう。だが、できるのはそれぐらいである。

 世界のトップ・オブ・トップの選手は、判断力に優れる。決断力に置き換えてもいい。「いま、ここで、なにをすべきか」というジャッジを、個々の選手が瞬時に下す。ベンチの指示を待たない。

 ザック率いる日本は、「自分たちで主導権を握るサッカー」を標榜する。そのなかには、相手に主導権を握られたなかでのしのぎ方も含まれているはずだ。だとすれば、相手に押し込まれた局面においても、ピッチ内での応用力が問われるだろう。

 10日の練習をオフにしたことについて、ザックは「それまでのトレーニングがプログラムどおりに消化できれば、このタイミングでオフにしようとかなり前から決めていた」と話している。大会前のトレーニングは、指揮官の考えどおりに進むのが望ましい。だが、ワールドカップの戦いでは、指揮官の予想を良い意味で裏切るサプライズがほしい。こちらの想定内ということは、対戦相手にとってもほぼ予想どおりだからである。(戸塚啓=スポーツライター)

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