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【コラム】西部謙司

1983年“エル・クラシコ”に見る ルールの進歩

[ 2013年10月10日 06:00 ]

 バルセロナとレアル・マドリードの“エル・クラシコ”を見た。といっても今季のではなく、古く83年の国王杯決勝である。テレビの解説の仕事があって観戦したのだが、当時のサッカーはこんなだったのかと驚かされた。

 バルセロナにはマラドーナやシュスターがいて、レアル・マドリードにはシュティーリケやサンティジャーナという時代だ。技術や戦術も現代とは違っていたが、一番違っていたのがレフェリングである。

 タッチライン際でマラドーナとカマチョが1対1になる場面があったのだが、カマチョは現在の基準なら間違いなく一発退場になるファウルをかました。カマチョはすでにイエローカードをもらっていた。どう甘く見積もってもイエロー2枚で退場のケースだ。ところが、主審はレッドはおろかイエローカードすら出さなかった。蹴られたマラドーナも何も文句を言っていない…。ほかにもイエローやレッド相当のファウルが乱発されるが、やはり誰も退場にならなかった。主審への抗議もそんなにない。

 忘れていたが、当時はそんなものだったのだ。カマチョのタックルがセーフなら、どんなファウルでもレッドカードは出ない。相手を殴るとか、よほどのことをしないかぎりプレー中のファウルぐらいでは退場にならない。マラドーナは、ほぼボールに触れるたびにファウルされていた。そんな中でもスーパープレーを連発したのはさすがだったが、現在のジャッジ基準ならさらに素晴らしいプレーができただろう。

 サッカーのルールに大きな変更はないものの、毎年少しずつマイナーチェンジはしてきている。ボールをプレーする選手は30年前に比べると手厚く保護されている。プレーそのものの進歩、用具の進化もあるとはいえ、ジャッジがより厳しくなっているのは大きい。

 現在の判定基準で30年前の試合を裁いていたら、それはそれでゲームコントロールに失敗する可能性は高い。当時の主審はもちろん当時の基準で裁いていて、それで選手からとくに文句も出ていない。少しずつ改良を重ねた結果、現在の基準に落ち着いている。今回、たまたま30年前の試合を見てみて、サッカーの進歩はジャッジが大きく影響していると思い知らされた。いま見れば酷いファウルが相当ある中、30年前の選手たちは大して文句も言わずに黙々とやっていた。ある意味、彼らのタフさも新鮮だった。(西部謙司=スポーツライター)

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