【コラム】西部謙司

アーセナルでサイドバックの冨安

[ 2021年9月22日 16:30 ]

アーセナルDF冨安健洋
Photo By 共同

 プレミアリーグ第5節終了時点でアーセナルは13位に沈んでいる。ただ、冨安健洋が出場したここ2試合はどちらも1-0で勝利して少し持ち直した。

 第5節のバーンリー戦で先発フル出場した冨安のポジションは右サイドバックだった。前節のデビュー戦も同じだったので、今のところミケル・アルテタ監督の構想ではサイドバックである。

 冨安のプレーぶりは悪くない。現地でも高評価のようだ。移籍してすぐに起用されているところからも期待の大きさがうかがえる。だが、冨安の適性は本当にサイドバックなのか、日本代表のセンターバックとしてのプレーに影響がないかは気になるところだ。

 ボローニャのときもサイドバックは経験していて適性はある。ただし、アーセナルでの起用方法は普通のサイドバックとはいえない。

 現代のサイドバックはむしろ「バック」ではない。ウイングのように攻撃し、プレーメーカーのように組み立ての軸になる。さらに「偽サイドバック」と言われるように、「サイド」にすらないケースもある。冨安のプレーぶりは、そうした時代の流れに取り残されたようにサイドにいるDFだった。逆サイドのティアニが頻繁に高いポジションに進出するのとは対照的に、ほぼ守備専門なのだ。

 この試合で最もボールタッチ数の多かったのは冨安だったのだが、結果的にそうなったにすぎない。前半はセンターバック右側のホワイトはほとんど冨安にパスしていなかった。まるで無視するように、よほどのことがなければボールを渡さないことに決めているかのようにさえ見えた。

 チームに合流して日も経っておらず、冨安の力量をよくわかっていないということもあるかもしれないが、基本的にはアルテタ監督の方針なのだと思う。あれほど低いポジションをキープし続けるのはむしろ不自然だからだ。左サイドバックのティアニを攻撃に送り出すかわりに、カウンターケアとして冨安を含む3バックで対応するつもりなのだ。センターバックとサイドバック(ボランチもできる)の両方をこなせる特徴を考えての起用法と思われる。

 冨安はDFとしてクロスボールを何度もブロックし、ボールを持てば良い位置にいる味方へそつなくパスを通していた。安定した守備力と確実なフィード、アルテタ監督の冨安への期待はそこにあるのだろう。

 冨安の前方にいる右ウイング、ペペは左利きのドリブラーでタッチラインに開いてボールを受けようとするタイプだ。つまり、冨安が上がる前方のスペースは塞がっている。ウイングはすでにいるので、冨安の攻撃面での仕事はペペのサポートで十分とされているのではないか。

 かくして、ほぼ守備専門の右サイドバックという現代サッカーではかなり珍しい部類のサイドバックとして冨安は起用されている。本人の適性としては問題なくこなせるだろう。日本代表にどう影響するかは本人と周囲の考え方しだいだ。“普通”のサイドバックとしては酒井宏樹がすでにいて、森保監督がアルテタ監督のアイデアを採用する理由もない。

 冨安はセンターバックで起用されるはずだ。センターとサイドでは景色が違う、プレミアの強力なセンターフォワードと渡り合う機会が少なくなるのも残念だが、もっぱら守備のサイドバックなのでサイドでも守備の経験は積める。幅を広げるきっかけにもなるかもしれない。サイドバックの経験がプラスになるかマイナスになるかは本人しだいだと思う。(西部謙司=スポーツライター)

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