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【コラム】西部謙司

GKがもたらす進化

[ 2019年4月12日 14:00 ]

 1992年にバックパス・ルールが変わってからしばらく、GKは受難の時期を過ごした。それまではバックパスを手で扱えたのが、急に足で扱わなければならなくなった。当時のGKは足でボールを扱うことにあまり慣れておらず、歴戦の名手が醜態をさらすこともあった。しかし、やがて足下の技術にも優れたGKが台頭して現在に至っている。

 Jリーグでは西川周作がフィールドプレーヤー顔負けのフィード力で有名になった。西川の活躍はサンフレッチェ広島、浦和レッズの戦術と関係がある。当時のミハイロ・ペトロヴィッチ監督はGKをビルドアップに参加させた先駆者だった。今季のJ1では大分トリニータがGKをビルドアップに組み込んでいる代表的なチームだ。GK高木駿はペナルティーエリアの外にポジションをとって、センターバックとともに組み立てを担当する。ヴィッセル神戸、横浜Fマリノスなども、GKがパスワークの一端を担っている。

 しかし、日本代表はまだそこまでいっていない。そこまでリスクを負っていないわけだが、GKの攻撃力は進歩のためのポイントだ。

 ロシアワールドカップのベルギー戦を振り返ると、2-0とリードした後にベルギーが空中戦を仕掛けてきたのに耐えられなかったのが敗因だった。直接的な対策は空中戦の強化になるが、日本がボールを持ったときにキープして押し返し、敵陣でのプレーを長くしてしまえば、空中戦の脅威は軽減され、あそこまで押し込まれることもなかったのだ。GKがロングキックを連発しているようではボールキープなど覚束ない。後方から数的優位を作ってキープするには、どうしてもGKのビルドアップ能力が必要になってくる。

 GKにとって最も大事なのはゴールを守る守備能力だ。攻撃力が良くても守備力が弱いのでは本末転倒になる。ただし、チームを進化させるためには守備力だけでは十分でない。マンチェスター・シティはグァルディオラ監督が就任するとイングランド代表の正GKだったジョー・ハートを放出してしまった。もっと足下の技術に優れたGKがほしかったからだ。しかし、最初のシーズンはGKやDFのミスから何度も失点し数多くのピンチを招いた。エデルソンを獲得してようやく落ち着いている。支払った代償も大きかったが、リスクをとったおかげで今日のシティになれた。

 ロシア大会のゴールを守った川島永嗣、アジアカップの権田修一が総合的にファーストチョイスだったことに異論はない。ただ、そろそろもう一歩前に踏み出さないと日本代表は変われない。(西部謙司=スポーツライター)

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