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【コラム】西部謙司

青田買い対象のJリーグ

[ 2019年12月4日 18:00 ]

バルセロナのBチームに所属するMF安部
Photo By スポニチ

 15年ほど前だったか、パリ・サンジェルマンのクラブハウスを見せてもらったとき、地下室でこもりきりの職員に会った。駐車場か物置みたいな殺風景なスペースにビデオデッキが設置されていて、その人は毎日そこで映像をチェックする仕事をしていた。

 現在は世界中のほとんどのプロとプロ候補の選手をチェックできるサイトがある。下部リーグやユースの選手まで、ネット環境があれば世界のどこでもチェックできるのだから便利になったものだ。

 今季はJリーグから例年になく若手選手がヨーロッパへ移籍した。久保建英(レアル・マドリー→マジョルカ)、安部裕葵(バルセロナ→バルセロナB)、食野亮太郎(マンチェスター・シティ→ハーツ)とビッグクラブへ移籍した選手もいる。

 ただ、久保、安部、食野はレアル、バルサ、シティのトップチームでプレーしているわけではない。これは現在の移籍事情を象徴している。ビッグクラブはもはや育成チームを人材供給のための組織と考えていない。即戦力は莫大な費用を投じてもすでに活躍していて名のある選手を獲得するので、ユースからの昇格は非常に少なくなっている。ユースの選手たちはむしろスターを獲得するための資金調達に使われているのが現状だ。

 十代の若い才能ある選手を獲得し、他のクラブへ貸し出す。そこで経験を積ませ、トップに必要な戦力と見れば呼び戻すが、そうでなければ他クラブへ売却する。ビッグクラブが目をつけるほどのタレントだから、移籍金もそれなりに高くとれる。

 レアルはプレシーズンマッチに久保を帯同させたがシーズンが始まるとマジョルカへ貸し出している。久保と同時期に加入した同年代のロドリゴはトップチームに残り、すでにデビューも果たした。プレシーズンマッチを見るかぎり、久保は何らロドリゴに劣っていない。それどころか久保のほうが良いプレーぶりだったかもしれない。それでもロドリゴが残っているのは移籍金の金額が全然違うからだ。それだけの投資をした選手だから扱いが違う。

 日本の若手選手へのオファーは来季も続くだろう。日本の若手はヨーロッパや南米の同年代の選手に比べて獲得資金がはるかに安くすむ。質も高く意欲もあり、何より投資金額が安いので、次に移籍が決まれば確実に収益が出る。日本の若手にとっては早くヨーロッパに出てステップアップするチャンスではあるが、Jリーグとして何らかの対策を講じないと青田買いのターゲットにされ、Jクラブに大したお金が残らないという状態が続くことになる。(西部謙司=スポーツライター)

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