【コラム】西部謙司

中島翔哉の「破格」をどう扱うか

[ 2019年10月2日 19:00 ]

ポルト(ポルトガル)所属の日本代表MF中島翔哉
Photo By AP

 中島翔哉がFCポルトの監督に怒られた、という“事件”があった。

 監督が選手を強い口調で叱責するのは珍しいことではない。かつてマンチェスター・ユナイテッドでは、アレックス・ファーガソン監督が怒りにまかせてスパイクを蹴り、デイビッド・ベッカムの額に当たって怪我をさせるという“大事件”もあった。もちろんファーガソンは狙っていたわけではなく、「それができれば今でも現役だよ」とジョークにしていたが、彼の選手への厳しい“指導”は“ヘアドライヤー・トリトメント”と呼ばれて有名だった。ただ、そうしたことはロッカールームで行われるのが普通である。

 セルジオ・コンセイソン監督は、ポルティモネンセ戦の終了直後にフィールド上で中島に詰め寄ったから目立ってしまい、日本でも報道されることになったわけだ。とはいえ、これで両者の関係がこじれることはなく、今後に禍根を残すこともないだろう。

 しかし、監督の怒りの根本にあったものはどうだろうか。

 セルジオ・コンセイソン監督が中島の何に対して怒っていたのかは正確にはわからないが、守備に不満があっただろうことは容易に想像がつく。そして、これは日本代表にとっても無関係ではない。

 欧州でプレーする日本人アタッカーが干されるときの大きな要因が守備力の不足だ。パワーやアジリティといったフィジカル不足、戦術的な理解度が低いという問題、そもそも守る気がないという意識の低さなど、いずれにしても守備で穴になってしまうと先発では起用しにくくなってしまう。

 中島の場合、パワー不足はあるかもしれないが守備意識が低いというほどではない。最大の問題は守備をするべき場所に「いない」ということだ。つまり、フィジカルや戦術や意欲以前の話なのだ。中島のポジションは左ウイングまたはウイングハーフだが、攻撃ではそこから自由に動いていく。日本代表ではDFの近くまで引いてボールを預かり、そこから中央へドリブルとパスワークで仕掛けていくことも多い。それが彼のスタイルであり、それができるのも中島だけだ。日本代表の攻撃は中島がいるときといないときでは、まるで違うチームのようになっている。だが、そこまで自由に動いてしまうと、守備のときに守るべき左サイドから遠く離れてしまっていて、守備力うんぬんの前に守備に入れないわけだ。

 周囲が気を利かせて一時的に中島の作った穴を埋めてくれればいいのだが、欧州のチームは自分のエリアは自分で責任を持つのが基本なので、そこまで周囲は気遣ってくれない。FCポルトもそうだと思う。自由に攻撃するのは構わないが、守備ではいるべき場所にいなければならない。しかし、そうなると中島はある程度プレーを制限しなければならない。逆にこのまま破格路線で押し通すなら、チームが中島の穴を埋める手段を講じる必要がある。これは日本代表も同じで、いずれトップ下のポジションをなくしてMFを増員しなければチームが回らなくなる可能性がある。ラモス瑠偉、中田英寿、香川真司にも同様の問題はあったが、いずれ森保一監督を悩ますことになるかもしれない。(西部謙司=スポーツライター)

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