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【コラム】西部謙司

大きなセンターフォワード

[ 2020年5月20日 20:30 ]

 センターフォワード(CF)は昔から大きくてパワフルなイメージがあった。しかし近年は空中戦とポストプレーに特化したCFはめっきり減っていた。ズラタン・イブラヒモビッチやエディン・ジェコは昔ながらのタイプだが、「それだけ」というわけではない。

 リオネル・メッシの「偽9番」が典型だが、セルヒオ・アグエロのような小柄なCFも活躍している。ただ、技巧派のCFも以前からとくに珍しい存在ではなく、史上最高クラスのCFであるゲルト・ミュラーとロマーリオはどちらも小柄だ。

 日本代表の歴代FWを振り返ると、やはり大きなタイプと速いタイプの両方がいる。ただ、欧米と比較して平均身長が低いせいか、大型FWの系譜は断続的だ。「ターゲットマン」という用語の流布とともに代表に定着した高木琢也、呂比須ワグナー、巻誠一郎あたりで途絶えている。前田遼一や大迫勇也もこのタイプかもしれないが、高身長が武器というほどではない。

 ヨーロッパではスペインが大型FWを使わない。フェルナンド・トーレスは大柄だが、武器は高さよりも速さだった。ダビド・ビジャは大きくない。ダビド・シルバやセスク・ファブレガスは「偽9番」だ。2018年ロシアワールドカップではジエゴ・コスタを起用していたが活躍できなかった。

 スペインの攻撃の特徴は圧倒的なボール支配力にある。相手は最初から引いて守備を固める、いわゆる「バスを置く」戦法をとる。そこをパスワークで何とかこじ開けようとするスペイン、人海戦術で守ってカウンターを狙う相手。試合はいつもこの構図だ。ロシア大会のスペインは崩しきるまでに手間取るケースが続き、それは2年前のユーロも4年前のブラジルワールドカップも同じだった。優勝した2010年南アフリカ大会でも、すでにその傾向はあった。

 圧倒的なポゼッションで時代のトップランナーになったスペインだったが、そのスペインでも相手に引かれたら苦労する。他国はパスワークの向上という点でスペインを模倣していったが、ゴールへのアプローチではスペイン流に追随するのは効果がないと早い段階で諦めている。ユーロ2016では大型CFが復活し、引かれたらサイドにサイドバックを進出させてシンプルにハイクロスというアプローチを残した。攻め方としてはアバウトだが、引かれても空中ならスペースはある。

 大型FWの活用がどれほど効果的だったかは疑問があるのだが、他にアイデアがないのかこの傾向はロシアワールドカップでも続き、ベスト8進出のチームのFWはことごとく高身長だった。

 日本には190センチ前後の高身長FWがほとんどいない。また、代表でハーフナー・マイクが起用されても生かし切れなかった。高さを使う攻撃をチームとしてあまり信用していないのはスペインと似ていて、スペインがジエゴ・コスタを使えなかったのと同じだ。

 そもそも高さが武器になるFWが日本には少ないのだが、世界的な流れから外れているという現状は自覚しておいてほうがいいかもしれない。(西部謙司=スポーツライター)

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